戯けるな、放せ」
作「なんだ、人を欺《だま》して、金え出せよう」
新「遣るから待てよ、遣るというに、お賤、その柳行李《やなぎごり》の中に少し許《ばか》り金が這入《へえ》ってるから出して作藏に遣んな、三藏の懐には無《ね》えんだから沢山《たんと》は遣れねえ、十両ばかり遣ろう」
と気休めをいいながら隙《すき》を覘《ねら》ってどんと作藏の腰を突くと、どぶりと用水へ落ちましたが、がば/″\と直《すぐ》に上《あが》って参りまする処を見て、ずーんと脳を割附《わりつ》けると、アッ、といってがば/″\と沈みましたが、又這上りながら、
作「斬りやアがったなア此の野郎」
と云う声がりーんと谺《こだま》がして川に響きました。尚《なお》も這上ろうとする処を、また一つ突きましたから、仰むけにひっくりかえりましたが、又這上って来るのを無暗《むやみ》に斬り附けましたから、馬方の作藏は是迄の悪事の報いにや遂《つい》に息が止ったと見え、其の儘土手の草を攫《つか》んだなり川の中へのめり込んで仕舞いました。
賤「お前まア恐ろしい酷《ひど》い事をするねえ」
新「此の野郎はお饒舌《しゃべり》をする奴だから、罪な様だが五両でも八両でも金を遣るのは費《ついえ》だから切殺して仕舞ったが、もう此処《こゝ》にぐず/\してはいられねえ」
賤「私はどうも殴《ぶた》れた処《とこ》が痛くって堪《たま》らないよ」
新「何《な》んだか暗くって判然《はっきり》分らねえ」
といいながら透《すか》して見ると、石だか土塊《どろ》だか分りませんが、機《はず》みとはいいながら打《ぶ》たれた痣《あざ》は半面紫色に黒み掛り、腫《は》れ上っていましたから、新吉がぞっとしたと申すは、丁度七年|後《あと》の七月廿一日の夜《よ》、お累が己を怨《うら》み、鎌で自殺をした彼《あ》の時に、蚊帳の傍《そば》へ坐って己の顔を怨めしそうに睨《にら》めた貌《かお》が、実に此の通りの貌だが、今お賤が思い掛ない怪我をして、半面|変相《へんそう》になるというのも、飽《あく》までお累が己の身体に附纒《つきまつわ》って祟《たゝり》をなす事ではないかと、流石《さすが》の悪党も怖気立《こわげた》ち、ものをも言わず暫くは茫然《ぼんやり》と立って居りましたが、お賤は気が附きませんから、
賤「お前早く人の来ない中《うち》に何処《どこ》かへ往って泊らなくっちゃアいけな
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