聞いたか、是ハア困ったなア、実は銭がねえで困るから這入《へえ》る真似しただア、だが余り這入《へえ》り度《たく》はねえんだ」
 新「旨くいってるぜ、併《しか》し三藏は何処《どこ》へ往ったんだ」
 作「三藏かえ、彼《あれ》はね婆《ばア》さまが死んだから其の白骨を本当の紀州の高野へ納めに往くって、祠堂金《しどうきん》も沢山持ってる様子だ、お累さんもあゝいう死様《しによう》をしたのも矢張《やっぱり》お前《めえ》ら二人でした様なものだぜ」
 新「汝《てめえ》是から新高野へ馬を引いて往くのなら矢張《やっぱり》帰《けえ》りは此処《こゝ》を通るだろう」
 作「鰭ヶ崎の方へ廻るのだが此方《こっち》へ来ても宜《い》い」
 新「そうか、おい作」
 作「え何《な》んだ」
 新「一寸耳を貸せ」
 作「ふーん、怖い事だな」
 新「汝《てめえ》馬を引いて先方《むこう》へ往って、三藏を此処《こゝ》迄乗せて連れて来たら、何か急に用が出来たと云って、馬を置《おき》っ放《ぱな》して逃げてしまってくれねえか、併《しか》し馬を置いて往かれちゃア三藏に逢って仕事をする邪魔になるから、引いてってくれ、其の代り金を三十両やらア」
 作「え、三十両本当に己ア金運《かねうん》が向いて来た、じゃア金をくんろえ、してどういう理窟だ」
 新「三藏とは一旦兄弟とまでなったが、お累が死んでからは、互《たげ》えに敵《かたき》同志の様になったのだ」
 作「敵同志だって汝《おめえ》が三藏を怨むのアそりゃア兄い些《ち》と無理だんべえ、成程お賤さんの前《めえ》もあるから、そういうか知んねえが、三藏を敵と思《おめ》えば無理だぞ、お前《めえ》が養子に往っても男振が宜《い》いもんだから、お賤さんに見染められ、互《たげ》えに死ぬの生《いき》るのと騒ぎ合い、お累さんを振捨てゝお賤さんとこういう事になったから、お累さんも上《のぼ》せて顔が彼様《あんな》に腫れ出して死んで了《しま》ったのだから、却《かえ》って三藏の方でお前を怨んでいるだろうが、何もお前の方で三藏を悪《にく》み返すという理合《りあい》はあんめえぜ」
 新「汝《てめえ》は深い事を知らねえからそんな事をいうんだが、何《なん》でも構わねえ、己が三藏に逢って、百両でも二百両でも無心をいって見ようと思うのだ」
 作「三藏|殿《どん》がお前《めえ》に金を貸す縁があるかえ」
 新「貸しても宜《い》い
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