が、彼処《あすけ》え上げて置いたが、あれ汝《われ》持って来たか」
惣「あれ己《おれ》置いて来た」
母「困るなア、子供だア、母様|塩梅《あんべえ》悪《わり》いだから、薬|大事《でいじ》だからてえ考《かんげ》えもなえで」
惣「だって、己もう宜《い》いてえから、よかんべえと思って何も持って来《き》なかった」
母「困ったなア、あゝ痛い/\」
惣「母様雪降って来た様だから、此処《こゝ》に居ると冷てえから、此の観音様の御堂に這入って些《ちっ》と己おっぺそう」
母「そうだなア、押してくれ」
惣「あい」
母「おゝ、大《でけ》え観音様のお堂だ、南無大慈大悲の観世音菩薩様少々|此処《こゝ》を拝借しまして、此処で少し養生致します。さア惣吉力一ぺえ押せよ」
惣「母様此処な処かえ」
母「もっとこっち」
惣「もっと塩梅《あんべえ》が悪くなると困るよう、しっかりしてよう、多助|爺《じい》やアを連れて来ると宜《よ》かった」
と可愛らしい紅葉《もみじ》の様な手を出して母の看病をして、此処を押せと云われて押しても力が足りません。
母「あゝ痛い/\、そう撫《なで》ても駄目だから拳骨で力一ぺえおっぺせよ、拳骨でよ、あゝ痛い/\」
八十一
女「何《なん》だか大層|呻《うな》る声が聞えるが……貴方かえ」
母「へえ、旅の者《もん》でござえますが、道中で塩梅《あんべえ》が悪くなりましてね、快くなえうち歩いて来ましたから、原|中《なけ》え掛って寸白が起って痛《いと》うごぜえますから、観音様のお堂をお借り申しました」
女「それはお困りだろう、お待ち、どれ/\此方《こっち》へ這入りなさい」
と観音堂の木連格子《きつれごうし》を明けると、畳が四畳敷いてございます。其の奥は板の間になって居ります、年の頃五十八九にもなりましょう、色白のでっぷりした尼様、鼠木綿の無地の衣を着て、
尼「さア此方《こちら》へお這入りさア/\擦《さす》って上げましょう憫然《かわいそう》に、此の子が小さい手で押しても、擦っても利きはしない、おゝ酷《ひど》く差込んで来る様だ」
母「有難うごぜえます、痛くって堪《たま》らねえでね、宿屋へ一寸泊りましたが癒らねえで」
尼「こう苦《くるし》むに子供を連れて何処《どこ》まで……なに塚前まで、是から三里ばかりで近くはない、薬はお持ちかえ」
母「はい、薬
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