隅「先生/\もうお寝《やす》みなすったか」
 安「うーん貞藏は寝たか」
 隅「はい能く寝ました、大層酔いましてねえ」
 安「酔っても宜《い》いから、あんな奴に構うな、寝ろよ」
 隅「寝ろって夜具がありません、私は食客《いそうろう》でございますから此処《こゝ》に坐っています」
 安「そんな詰らぬ遠慮にはおよばぬ、全く疑念が晴れて、己の女房になる気なら真実可愛いと思うから、手前に楽をさして真実|尽《つく》すぞ」
 隅「誠に有難いこと、勿体ないけれども、そんなら此の掻巻の袖の方から少し許《ばか》り這入りまして」
 安「いや少し許りでなくって、たんと這入れ」
 隅「それじゃア御免なさいまし」
 と夜着《よぎ》の袖をはねて、懐中から出した匕首を布団の下に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《はさ》んで、足で踏んで鞘を払いながら、
 隅「じゃア御免遊ばせ、横になりますから」
 安「さア這入れ」
 と一角が夜着の袖を自ら揚げる処を、
 隅「亭主の敵」
 と死物狂いに突掛《つっかゝ》るという。お話二つに別れまして麹屋では更に斯様《かよう》な事は存じません。暁方《あけがた》になってお隅がいない処から家中《うちじゅう》捜しても居ない、六畳の小間が血だらけになっているから掻巻を撥《はね》ると、富五郎が非業な死に様《よう》、傍《わき》の処に書置が二通あって、これにお隅の名が書いてあるから、亭主は驚きまして、直《すぐ》に是を開いて読んで見ると、富五郎の白状に依《よ》って夫の敵は一角と定まり、女ながらも富五郎は容易《たやす》く仕止めたから、直に一角の隠れ家交遊庵へ踏込《ふんご》んで、首尾よく往《い》けば立帰って参りますが、女の細腕、若《も》し返り討になりました時は、羽生村へ話をして此の書置を遣り、又関取へもお便りなすって、惣吉成人の後《のち》関取を頼んで旦那と私の敵を討たして下さい、証拠は富五郎の白状に依って手引をした者は富五郎、斬った者は一角と定まりました、夫故《それゆえ》に今晩交遊庵に忍び入ります、永々《なが/\》お世話様になりました、有難い。という重ね/″\の礼まで書残してあるから、それッというので、麹屋の亭主は大勢の人を頼んで恐々《こわ/″\》ながら交遊庵に参ったのは丁度|夜《よ》の暁方《あけがた》、参って見ると戸が半ば明いて居ります、何事か分
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