どうも御無沙汰を致しまして」
安「此の夜中雪の降る中を踏分けて何《ど》うして来た」
七十五
隅「あの今日富五郎が来ましてね、何か先生に頼まれた事があると云って、私の処へ客になって来まして、お酒に酔って何《なん》だか種々《いろ/\》な事を云いますの、けれども其の様子がさっぱり分りませんから、其の事に付いて先生にお目に掛らなければ様子が分りませんから」
安「それはどうも、富五郎が行ったかい、貞藏、富五郎が往ったって」
貞「だから私が先生に申上げて置きました、彼奴《あいつ》は誠にあゝいう処ばかり遊びに参るのが好きでげす、全体道楽者でげすからなア、彼奴|余程《よっぽど》婦人|好《ずき》でげすよ」
安「で、富五郎が往って何《ど》ういう話し振の、まア一杯[#「一杯」は底本では「一抔」]飲め」
隅「有難うございます、まアお酌を」
安「イヤ一杯[#「一杯」は底本では「一抔」]飲め」
隅「左様でございますか、貞藏さん、お酌を、恐れ入ります」
貞「いや久し振りでお酌をする、私《わし》の名を心得ているから妙でげすな、久しい前に一度先生のお供を致しましたが、其の時逢った一度で私の名まで覚えているというのは、商売柄は又別なものでげす、お隅さん相変らず美しゅうございますな」
安「これお隅、手前名主の手を切って麹屋の稼ぎ女になったとか、枕附で出るとかいう噂があったが嘘だろうな」
隅「いゝえ嘘ではございません、誠にお恥かしゅうございますけれどもべん/\とあゝ遣ってもいられませんから、種々《いろ/\》考えました処が、江戸には親類もありますから、何卒《どうぞ》江戸へ参り度《た》いと思いまして、故郷《こきょう》が懐かしいまゝ無理に離縁を取って出ましたが、手振り編笠《あみがさ》、姑《しゅうと》が腹を立って追出すくらいでございますから、何一つもくれませぬ、それ故少しは身形《みなり》も拵《こさ》えたり、江戸へ行《ゆ》くには土産でも持って行《ゆ》かなければなりませぬ、それには普通《たゞ》の奉公では埓《らち》が明きませんから、いや/\ながら先生お恥かしい事になりました」
安「オヽ左様か、じゃア自《みずか》ら稼いで苦しみ、金を貯めてなにかい身形を拵えて江戸へ行《い》こうと云う訳か、どうも能く離縁が出たのう」
隅「それが向《むこう》で出さないのを此方《こっち》から強情に取
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