、どうでげす」
安「お帰んなさい、何《なん》だお前は、これ汝《てまえ》は何だ、惣次郎方の厄介になっている者なれば、惣次郎がどうかして安田を馬鹿にして遣《や》れというので来たな、初めて逢って他人の女房を貰えなどと、はい願いますと誰《たれ》がいう、殊《こと》に惣次郎には、去年の秋|聊《いさゝ》かの間違で互《たがい》に遺恨もあり、私《わし》も恨みに思っている、其の敵《かたき》同士の処へ来て女房に世話をしましょうなどと、はい願いますと誰《たれ》がいう、白痴《たわけ》め、帰れ/\」
富「成程是は至極御尤も、どうもお気分に障るべき事を申したが、まア」
安「騒々しい、帰れったら帰れ」
富「まア/\重々御尤も、是には一つの訳がある、ようがすか、手前が打明けた話を致しましょう、手前も武士で二言はない手前は本所北割下水で千百五十石を取った座光寺源三郎の用人山倉富右衞門の忰富五郎、主人は女太夫を奥方にした馬鹿ですから家は改易、仕方なし、手前は常陸に知己《しるべ》があるから参ったが、ふとした縁で惣次郎方の厄介、処が惣次郎人遣いを知らず、名主というを権《けん》にかって酷《ひど》い取扱いをするは如何《いか》にも心外で、手前は浪人でも土民《どみん》なぞにへえつくする事はない、残念に心得ているが、打明話を致すが、江戸に親類どもゝある身の上、江戸へ帰るにも何か土産がないが、実は今まで道楽をして親類でも採上《とりあ》げませんから、貴方の内弟子になってお側で剣道を教えて頂いて、免許目録を貰って帰ると、親類でも今まで放蕩をしても田舎へ行って、是々いう先生の弟子になってと書付《かきつけ》を持って帰れば、それが価値《ねうち》になって何処《どこ》へでも養子に行かれる、処が、御門人にといっても、月々の物を差上げる事も出来ません身の上でございますが、それを承知で貴方の弟子に取って下さるなれば、私《わたくし》は弟子入の目録代りに、御意《ぎょい》に適《かな》ったお隅を、御新造に、長熨斗《ながのし》を付けて持って来ましょう」
六十三
安田「是は面白いぞ、惣次郎という主《ぬし》のある者をどうして持って来られます」
富「惣次郎が有ってはいけませんが、惣次郎を一《ひ》ト刀《かたな》に斬って下さい」
安「黙れ、馬鹿をいうな、帰れ、帰れ、汝《われ》は惣次郎と同意して手前の気を引きに来たな、うゝん帰
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