ら幾ら止《や》めろといっても外《そと》で飲みます。すると或日《あるひ》の事で、ずぶろくに酔って帰ると、惣次郎はおりません。母は寺参りに往ってお隅が一人奥で裁縫《しごと》をしている。
 富「只今帰りました」
 隅「おやまア早くお帰りで、今日は大層酔って何処へ」
 富「ヘエ、水街道から戸頭《とがしら》まで、早朝から出まして一寸帰りに水街道の麹屋へ寄りましたら能く来たというので、彼《あ》の麹屋の亭主が一杯というので有物《ありもの》で馳走になりまして大《おお》きに遅くなりました」
 隅「大層真赤に酔って、旦那様はまだお帰りはありますまい、お母様《っかさま》は寺参りに」
 富「左様で、御老体になりますとどうもお墓参りより外|楽《たのし》みはないと見えて毎日いらっしゃいますが恐入ります、また旦那様の御様子てえなねえ、誠にド、どうも恐入りますねえ、あんたはお家《うち》で柔和《おとな》しやかに裁縫《しごと》をなすっていらっしゃるは、どうも恐入りますねえ、ド、どうも富五郎どうも頂きました」
 隅「大層真赤になって些《ちっ》とお寝《やす》みな」
 富「中々|寝度《ねた》くない、一服頂戴、お母様はお寺参り、また和尚さんと長話し、和尚様はべら/\有難そうにいいますね、だが貴方《あんた》がお裁縫《しごと》姿の柔和《おとな》しやかなるは実に恐れ入りますねえ」
 隅「少しお寝みよ、富さん」
 富「ヘエ/\寝度《ねた》くないので、貴方は段々承ると、然《しか》るべき処の、お高も沢山お取り遊ばしたお武家の嬢様だが、御運悪く水街道へいらっしゃいまして、御親父様《ごしんぷさま》がお歿《かく》れになって、余儀なく斯《こ》ういう処へ入らしって、其の内|彼《あゝ》いう杜漏《ずろう》な商売の中にいて貴方《あんた》が正しく私は武士《さむらい》の娘だがという行いを、当家の主人がちゃんと見上げて、是こそ女房という訳で、此方《こちら》へいらしったのだが、貴方《あなた》だってもまア、私《わたくし》の考えが間違ったか知れんが、武士たる者の娘が何も生涯という訳ではなし、此の家《うち》は真《ほん》の腰掛で、詰らんといっては済みませんが、けれども貴方生涯|此家《こゝ》にいる思召《おぼしめし》はありますまい、手前それを心得て居るが、拙者も止むを得ず此処《こゝ》にいる、致し方がないから、半年《はんねん》も助《すけ》ろ、来年迄いろよ、有
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