女を貰いましょう」
花「是は仕様がねえ、じゃア、まアお前さんが剣術遣だから刀に掛けても貰おうというだら私《わし》は角力取だから力に掛けても遣る事は出来《でけ》ぬと極めた、それより外《ほか》は出来《でけ》ませんわ」
というと一角も額に青筋を張って中々聴きません。此の家《うち》へお飯《まんま》を喫《た》べに這入った人達も驚きましたが中には角力|好《ずき》で江戸の勇み肌の人も居りまして、
客「どうだもう帰《けえ》ろうじゃアねえか、因業《いんごう》な武士《さむれえ》だ彼《あ》の畜生《ちきしょう》」
客「ウム己達《おらっち》が彌平《やへい》どんの処へ来るたって深《ふか》しい親類でもねえが、場所中《ばしょちゅう》関取が出るから来ているのだが、本当に好《い》い関取だなア、体格《からだ》が出来て愛敬相撲だ一寸《ちょっと》手取《てとり》で、大概《てえげえ》角力取が出れば勘弁するものだが、彼奴《あいつ》め酒を打掛《ぶっか》けやアがって酷《ひど》い事しやアがる」
客「相手の武士《さむれえ》は三人だ、関取がどっと起《た》って暴れると根太《ねだ》が抜けるよ」
客「斯《こ》うしようじゃアねえか、折《おり》を然《そ》ういっても間に合うめえし残して往っても無駄だから、此の生鮭《なまじゃけ》と玉子焼とア持って行こう」
などゝ横着な奴は手拭の上に紙を布《し》いて徐々《そろ/\》肴《さかな》を包み始めた。
花「じゃア先生《しぇんしぇい》こうしましょう、此処《こゝ》の家《うち》でごたすたいった処が此の家へ迷惑かけて、外《ほか》に客があるから怪我でもさしてはなりません、戸外《おもて》に出て広々とした天神前の田甫《たんぼ》中でやりましょう、私《わし》も男だ逃げ隠れはしません」
安「面白い出ろ」
というので三人づんと起《た》った。
客「喧嘩だア/\」
と他《ほか》の客はバラ/\逃げ出したが、代を払って行《ゆ》く者は一人もない、横着者は刺身皿を懐に隠して持って行《ゆ》く者もあり、中には料理番の処へ駈込んで、生鮭を三本も持って逃出す者もあり、宇治の里では驚きましたが、安田一角は二人の助けを頼みとして袴の股立ちを取って、長いのを引抜き振翳《ふりかざ》したから、二人の武士も義理で長いのを引抜き三人の武士《さむらい》が長い閃《きら》つくのを持って立並んでいるから、近辺の者は驚きました。惣次郎は猶更
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