いので、私《わし》は馴染の事でもあるに由《よ》って、重吉手前は顔売る商売じゃ、なり代って詫びてくれいって頼まれまして、見兼て中に這入りましたがねえ、重々御立腹でもございましょうが、斯《こ》ういう料理屋で商売柄の処でごた/\すれば、此家《こちら》も迷惑なり、お互に一杯ずつも飲もうと思うに酒も旨うない、先生《しぇんしぇい》も旨うない訳だから、成り代ってお詫しますから、花車に花を持たせて御勘弁を願います」
安「誠にお気の毒だが勘弁は致されんて、勘弁致し難《がた》い訳があるからで、勘弁しないというは武士の腰物《こしのもの》を女の足下《そっか》に掛けられては此の儘に所持もされぬから浄めて返せと先刻《さっき》から申して居《お》るのだ」
花「それは然《そ》うでありましょう、併《しか》し出来《でけ》ない処を無理に頼むので、出来難《でけにく》い処をするが勘弁だア、然《そ》うじゃアありませんか」
安「無理な事は聴かれませんよ、お前が仲に這入っては尚更《なおさら》勘弁は出来ぬではないか」
花「はア私《わし》が這入って、なぜね」
安「花車重吉という有名《なうて》の角力取が這入っては勘弁ならん、是が七十八十になる水鼻《みずっぱな》を半分クッ垂《たら》して腰の曲った水呑百姓が、年に免じて何卒《どうぞ》堪忍《かんにん》して下されと頭を下げれば堪忍する事も出来ようが、立派な角力取、天下に顔を売る者に安田一角が勘弁したとあれば力士に恐れて勘弁したと云われては、今井田流の表札に関わるから猶更勘弁は出来んからなあ」
花「それは困りますねえ、それじゃア物に角が立ちます、先生《しぇんしぇい》私《わし》は天下の力士でも何《なん》でもないわ、まア長袖の身の上で、皆さんの贔屓を受けなければならん、裸体《はだか》で、お前さん取まわし一つでもってから大勢様の前に出て、まア勝つも負《まけ》るも時の運次第でごろ/\砂の中へ転がって着物を投《ほう》って貰い勝ったとか負けたとかいう処が愛敬じゃア、然《そ》うして見れば皆様《みなさん》の御贔屓を受けなければならん、貴方が勘弁して下されば、それ花車|彼奴《あいつ》は愛敬者じゃア、先生が勘弁|出来《でけ》ない処を花車を贔屓なればこそ勘弁したといえば、それで私は先生のお蔭で又売出します、然うじゃアございませんか、勘弁しておくんなさい」
安「堪忍は出来ぬ」
花「出来ぬで
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