ます。
 新「兄い助けて呉れ/\」
 と喚《わめ》きますのを、
 甚「うぬ助けるものか、お賤のあまッちょも今|後《あと》からだ」
 と腰から出刄庖丁を取出して新吉の胸下《むなもと》を目懸けて突こうとすると、新吉は仰向に成って、
 新「己が悪かった堪忍して、兄い後生だから助けてよう」
 というも大きな声を出しては事が露顕しようと思いますから、小声で助けて呉んねえと呼ぶばかりでございます。すると何処《どこ》から飛んで来ましたかズドンと一発鉄砲の流丸《それだま》が、甚藏が今新吉を殺そうと出刃庖丁を振り翳《かざ》している胸元へ中《あた》りましたから、ばったり前へのめりましたが、片手に出刃庖丁を持ち、片手は土手の草に取つき、ずーと立上ったが爪立《つまだ》ってブル/\っと反身《そりみ》に成る途端にがら/\/\/\と口から血反吐《ちへど》を吐きながらドンと前へ倒れた時は、新吉も鉄砲の音に驚き呆気《あっけ》に取られて一向訳が分らないから、自分が[#「自分が」は底本では「身分が」]殺された心がしましてたゞ南無阿弥陀仏/\と申しましたが、暫くして漸《ようや》くに気が付き起上りまして四辺《あたり》を見廻し、
 新「アヽ何処から飛んで来たか鉄砲の流丸《それだま》、お蔭で己は助かったが猟師が兎でも打とうと思って弾丸《たま》が反《そ》れたか、アヽ僥倖《さいわい》命強《いのちづよ》かった、危ない処を遁《のが》れた、誰《たれ》が鉄砲を打ったか有難いことだ」
 併《しか》し猟夫《かりゅうど》が此の様子を見て居りはせぬかと絹川の方を眺めますれど、只水音のみでございまして往来は絶えた真の夜中でございます。此方《こちら》の庭の生垣の方からちらり/\と火縄の火が見える様だから、油断をせず透《すか》して見ますると、寝衣帯《ねまきおび》の姿《なり》で小鳥を打ちまする種が島を持って漸くに草に縋《すが》って登って来たのはお賤、
 賤「新吉さんお前に怪我は無かったかえ」
 新「お賤、手前《てめえ》はマア何《ど》うした」
 賤「私はモウ途方に暮れて仕舞って、お前に怪我をさしてはならないから何うしようかと思っても、女が刃物|三昧《ざんまい》しても彼奴《あいつ》には敵《かな》わないし、何うしようかと考えたら、ふいと気がついたんだよ、此の間ね旦那が鉄砲を出して小鳥をうつ時|手前《てまえ》もやって見ろッてんでね、やっと引金に指
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