ぱり行った」
 賤「私の云った通り後《あと》から石を投《や》ったのかえ」
 新「投った/\、気が付いたから後から石を二つばかり投った、あれが頭へ当りゃア直《すぐ》に阿陀仏《おだぶつ》だ」
 賤「いゝね、今脊中を拭くから一服おしよ、熱い湯で拭く方が好《い》いから」
 と銅盥《かなだらい》へ湯を汲んで新吉の脊中を拭いてやり、
 賤「袷におなり」
 新「大きにさば/\した」
 と其のうち此方《こっち》へ膳を持って来て酒の燗を付け、月を見ながら一猪口《ひとちょく》始めて、
 賤「もう是で二人とも怖い者はないよ」
 新「何《ど》うも実に旨《うめ》え事を考えて、一寸|彼奴《あいつ》も気が付かねえが、藤蔓に伝わって下りろといった時に、手前《てめえ》の智慧じゃアねえ様だといった時、胸がどきりとしたが、真逆《まっさか》さまになって落《おち》る上から側に在《あ》った石をごろ/\、あの石で頭を打破《ぶちわ》ったに違《ちげ》えねえが、彼奴は悪党の罰《ばち》だ。己《うぬ》が悪党の癖に」
 是から二人で中好《なかよ》く酒盛をしているうち空は段々雲が出て来て薄暗くなり、
 賤「もう寝ようじゃアないか」
 というので戸締りをしに掛りましたが、
 新「また曇って来たぜ、早く仕ねえ」
 賤「今お待ち」
 と床を敷く間新吉は煙草を喫《の》んでいると、戸外《おもて》の処は細い土手に成って下に生垣《いけがき》が有り、土手下の葮《よし》蘆《あし》が茂っております小溝《こみぞ》の処をバリ/\/\という音。
 新「何《なん》だか音がするぜ」
 賤「お前様《まえさん》は臆病だよ、少し音がすると」
 新「デモ何だかバリ/\」
 賤「なアに犬だよ」
 新「何だか大変にバリ付くよ、何だろう」
 と怖々《こわ/″\》庭を見る途端に、叢雲《むらくも》が断《き》れて月があり/\と照り渡り、映《さ》す月影で見ると、生垣を割って出ましたのは、頭髪《かみ》は乱れて肩に掛り、頭蓋《あたま》は打裂《ぶっさ》けて面部《これ》から肩《これ》へ血だらけになり、素肌へ馬の腹掛を巻付けた形《なり》で、何処《どこ》を何《ど》う助かったか土手の甚藏が庭に出た時は、驚きましたの驚きませんのではござりませぬ、是から悪事露見という処、一寸一息吐きまして。

        五十三

 引続きお聴きに入れました新吉お賤は、我《わが》罪を隠そうが為に、土手の甚
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