ろうじゃアねえか」
甚「然うか、新吉、旦那もお賤にゃア惚れて居たなア、二百両という金を埋めて置いて是で食えよとなア、若旦那にもいわねえで金を埋めて置くてえのは金持は違わア」
新「早く堀らねえと彼処《あすこ》の山は自然薯《じねんじょう》を堀りに行《ゆ》く奴が有るから、無暗《むやみ》に遣《や》られるといけねえ」
甚「じゃア早く」
新「鋤《すき》か鍬《くわ》はねえか」
甚「丁度鋤が有るから」
と有合《ありあい》の鋤を担《かつ》いで是から二十丁もある根本の聖天山へ上《あが》って見ると、四辺《あたり》は森々《しん/\》と樹木が茂って居り、裏手は絹川の流《ながれ》はどう/\と、此の頃《ごろ》の雨気《あまけ》に水増して急に落《おと》す河水の音高く、月は皎々《こう/\》と隈《くま》なく冴《さ》えて流へ映る、誠に好《よ》い景色だが、高い処は寒うございますので、
甚「新吉|此処《こゝ》は滅法寒いナア」
新「なに穴を堀ると暖《あった》かくなって汗が出るよ、穴を堀りねえ」
甚「余計な事をいうな」
新「此処だ/\」
と差図《さしず》を致しますから、
甚「よし/\」
といいながら新吉と土手の甚藏がポカ/\堀りまする、所が金は出ません、幾ら堀っても金は出ない訳で固《もと》より無い金、びっしょり汗をかいて、
甚「新吉金は無《ね》えぜ」
新「無《ね》いね」
甚「何をいうんだ、無駄っ骨《ぽね》を折《おら》しやアがって金は有りゃアしねえ」
五十二
新「左と云ったが、ひょっとしたら向って左かしら」
甚「何を云うんだ仕様がねえな此畜生|咽喉《のど》が渇いて仕様がねえ、斯《こ》んなにびっしょりに成った」
新「己も咽喉が渇くから水を飲みてえと思っても、手水鉢は殻《から》で柄杓《ひしゃく》はから/\だが、誰もお参りに来ないと見えるな、うんそう/\、此方《こっち》へ来な、聖天山の裏手に清水の湧《わ》く処がある、社《やしろ》の裏手で崖の中段にちょろ/\煙管《きせる》の羅宇《らう》から出る様な清水が溜って、月が映っている、兄《あに》い彼処《あすこ》の水は旨《うめ》えな」
甚「旨えが怖くって下《お》りられねえ」
新「下りられねえって何《ど》うかして下りられるだろう、待ちねえあの杉だか松だか柏《かしわ》だかの根方に成って居る処《とこ》に藤蔓《ふじつる》に蔦《つた
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