五十

 甚「それは縁はない、縁はないがね、縁を付けりゃア付かねえ事も有りますめえ、ねえ新吉と私《わっち》は兄弟分、ねえ其の新吉が此方様《こちらさま》へ御厄介に成って居るもの其の縁で来た私さ」
 賤「新吉さんは兄弟分か知りませんが、私はお前さんを知りません、新吉さん帰ってお呉んなさいヨウ、呆れらア馬鹿/\しい、人を馬鹿にして三拾両なんて誰《たれ》が貸す奴が有るものか、三拾両貸す様な私はお前さんに弱い尻尾《しっぽ》を見られて居れば仕方がないが、私の家《うち》で情交《いろ》の仲宿《なかやど》をしたとか博奕《ばくち》の堂敷《どうじき》でも為《し》たなら、怖いから貸す事も有るが、何もお前さん方に三拾両の大金を強請《いたぶ》られる因縁は有りません、帰ってお呉れ、出来ませんよ、ハイ三文も出来ませんよ」
 甚「然《そ》う腹を立っちゃア仕様がねえ、え、おい、だがねえお賤さん、人間が馬の腹掛を着て来る位《くれ》えの恥を明かしてお前さんに頼むのだ、私《わっち》も此の大《だい》の野郎が両手を突いて斯《こ》んな様《ざま》アしてお頼み申すのだから能々《よく/\》の事、宜《い》いかね、それにたった一分じゃア法が付かねえ、私の様な大きな野郎が手を突いてのお頼みだね、此の身体を打毀《ぶっこわ》して薪《まき》にしても一分や二分のものはあらアね、馬の腹掛を着て頼むのだから、お前さん三拾両貸して呉れても宜《よ》かろうと思う」
 賤「何が宜《い》いのだえ、何が宜いのだよ、何もお前さん方に三拾両の四拾両のと借りられる縁が有りません、悪い事をした覚えは有りません、博奕の宿や地獄の宿はしませんから貸されませんよ」
 甚「じゃア何《ど》う有ってもいけねえのかえ」
 賤「帰ってお呉んなさい」
 甚「そうか無理にお借り申そうという訳じゃアねえ、じゃア帰《けえ》りましょう、新吉黙って引込《ひっこ》んで居るなえ此処《こゝ》へ出ろ、借りて呉れ、ヤイ」
 新「其様《そん》な大きな声をしてはいけねえやな兄《あんに》い仕方がねえな、お賤さん仕方がねえ貸しねえ」
 賤「何《なん》だえ、お前さんは心易《こゝろやす》いか知りませんが、私は存じません、何様《どん》な事が有っても出来ませんよ、帰ってお呉んなさい」
 甚「何《ど》う有っても貸せねえってものア無理にゃア借りねえ、じゃア云って聞かせるが、コレ女だと思うから優しく出
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