合いません間に合わない訳で、殺した奴が知らしたのでございますから。是非なく是から遺言状をというので出して見ると、其の書置《かきおき》に、私は老年の病気だから明日《あす》が日も知れん、若《も》し私が亡《な》い後《のち》は家督相続は惣二郎、又弟惣吉は相当の処へ惣二郎の眼識《めがね》を以て養子に遣って呉れ、形見分《かたみわけ》は是々、何事も年寄作右衞門と相談の上事を謀《はか》る様、お賤は身寄頼りもない者、無理無体に身請をして連れて来た者であるから、私が死ねば皆《みんな》に憎まれて此の土地にいられまいから、元々の通り江戸へ帰して遣ってくれ、帰る時は必ず金を五十両付けて帰してくれ、形見分はお賤に是々、新吉は折々見舞に来る親切な男なれども、お賤と中がよいから、村方の者は密通でもしている様に思うが、彼《あれ》は江戸からの親《ちか》しい男で、左様な訳はない、親切な者で有る事は見抜いているから、己が葬式は、本葬は後《あと》でしても、遺骸を埋《うず》めるのは内葬にして、湯灌《ゆかん》は新吉一人に申し付ける、外《ほか》の者は親類でも手を付ける事は相成らぬ。という妙な書置でございますが、田舎は堅いから、其の通りに先《ま》ずお寺様へ知らせに遣り、夜《よ》に入《い》り内葬だから湯灌に成りましても新吉一人、湯灌は一人では出来ぬもので、早桶を湯灌場に置いて、誰《たれ》も手を付けては成らぬというのだから、
 新「皆さん入らしっては困りますよ、遺言に背きますから」
「実にお前は仕合《しやわ》せだ」
 と年寄から親類の者も本堂に控えて居る。是から早桶の蓋を取ると合掌を組んだなり、惣右衞門の仏様は斯《こ》う首を垂れて居るのを見ると、新吉は現在自分が殺したと思うとおど/\して手が附けられません。殊《こと》に一人では出来ないがと思って居る処へ、土手の甚藏という男、是は新吉と一旦兄弟分に成りました悪漢《わる》。
 甚「新吉/\」
 新「兄いか」
 甚「一寸《ちょっと》顔出しをしたのだが、本家へ行ったらお内儀《かみ》さんが泣いているし、誠にお愁傷でのう、惜しい旦那を殺した、えゝ此の位《くれ》え物の解《わか》ったあんな名主は近村《きんそん》にねえ善《い》い人だが、新吉、手前《てめえ》仕合《しやわ》せだな、一人で湯灌を言付けられて、形見分もたんまりと、エおい、おつう遣っているぜ」
 新「却《かえ》って有難迷惑で一人で
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