様になりますから、何卒《どうか》一度はお目に掛ってお礼を申し度《た》いと存じておりましても、何分にも子供はございますし、私《わたくし》も疾《と》うより不快でおりました故、御無沙汰を致しました」
 賤「誠にまア何うも降る中を夜中《やちゅう》にお出《いで》なすって、そんな事を仰しゃっては困りますねえ、新吉さんも江戸からのお馴染でございますから、私は此方《こっち》へ参っても馴染も無いもんでございますから、遊びにお出なすって下さいと、私が申しました、それから旦那も誠に贔屓《ひいき》にして、斯《こ》うやってお出なさるが、御亭主を引留めて遊ばしたと云えば、お前さんも心持が快《よ》くは有りますまいけれども、是に付いては種々《いろ/\》深い訳がある事でございますが、それは只今何も云いません、新吉さん折角迎いにお出でなすったからお帰りよ」
 新「帰《けえ》ることはねえ、おい、お前《めえ》冗談じゃアねえ、そんな形《なり》をして来て見っとも無い、亭主の恥を晒《さら》しに来る様なものだ、エ何《なん》だなア、おい、此の降る中を、お前なんだ逆上《のぼ》せて居るぜ、*たじれて居るなア」
*「のぼせて気が変になる。むちゅうになって気ちがいじみる」

        四十五

 累「はい、たじれ[#「たじれ」に傍点]たか知りません、私は何《ど》うなっても宜しゅうございますが、貴方の児《こ》だから殺すとも[#「殺すとも」は底本では「殺とすも」]何共《どうとも》勝手になさいだが、表向には出来ませんから、此の坊やアだけは今晩|夜《よ》が明けないうち法蔵寺様へでも願って埋葬《ともらい》を致したいと存じます、誰も宅《うち》へ参り人《て》はなし、私が此の病人では何う致す事も出来ませんから、何卒《どうぞ》一寸お帰りなすって、お埋葬《とむらい》だけをなすって、然《そ》うして又|此方《こちら》へ遊びに入らしって下さい、お賤さん、私が申しますと宅《やど》が立腹致しますから、何卒《どうか》あなたから、今夜だけ帰って子供の始末を付けてやれと仰しゃって」
 賤「はい、お帰りよ新吉さんよう」
 新「帰《けえ》れたって夜中に仕様がねえ」
 賤「夜中だって用があって迎いに来たのだからお帰りよ、旨く云って居ても本木《もとき》に優《まさ》る梢木《うらき》は無いという事だからねえ、お内儀《かみさん》に迎いに来られゝば心持が宜《い》いねえ
前へ 次へ
全260ページ中122ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング