でね、あれもお前が小さい時分からの馴染だから、何《ど》うぞ一目逢って来度《きた》いと云って、與助|此方《こっち》へ這入りな」
與「ヘエ有難う、お累さん與助でござえますよ、お訪ね申してえけれども、旦那にも云う通り、新吉さんが憎まれ口《ぐち》イきくので、つい足イ遠くなって訪ねませんで、長《なげ》え間|塩梅《あんべえ》が悪くってお困りだろう、何様《どん》な塩梅《あんべえ》で、エヽ暗くって薩張分りませんが、些《ちっ》とお擦《さす》り申しましょう、おゝおゝ其様《そん》なに痩《やせ》もしねえ」
三「それは己だよ」
與「然《そ》うかえお前《めえ》さんか、暗くって分らねえから」
三「何しろ暗くって仕様がない、灯《あかり》を点《つ》けなければならん、新吉は何処《どこ》へ行ったえ」
累「はい有難う、兄《あに》さん能《よ》く入らしって下さいました、お目に掛られた義理ではありませんが、何卒《どうか》もう私も長い事はございますまいから、一眼《ひとめ》お目に掛って死にたいと存じましても、心がらでお招《よ》び申す事も出来ない身の上に成りましたも、皆お兄様《あにいさま》やお母様《っかさま》の罰《ばち》でございますが、心に掛けておりました願いが届きまして、能く入らしって下さいました、與助能く来てお呉れだね」
與「ヘエ、来てえけれどもねえ、何《ど》うも来られねえだ、新吉が憎まれ口きくでなア、実にはア仕様がねえだ、蚊が多いなア、まア」
三「新吉は何処へ行った、なに友達に誘われて遊びに行ったと、作藏と云う馬方と一緒に遊んで居やアがる、忌々《いめえま》しい奴だ、蚊帳は何処にある、蚊帳を釣りましょう、なに無いのかえ」
累「はい蚊帳どころではございません、着ております物を引剥《ひんむ》いて持出しまして、売りますか質に入れますか、もう蚊帳も持出して売りました様子で」
三「呆《あき》れますな何《ど》うも、蚊帳を持出して売って仕舞ったと、この蚊の多いのによ」
與「だから鬼だって、自分は勝手三眛《かってざんまい》して居るから痒《かい》くもねえが、それはお累様ア憎いたって、現在赤ん坊が蚊に喰殺されても構わねえて云うなア心が鬼だねえ」
三「與助や家《うち》へ行って蚊帳を取って来て呉んな、家の六畳で釣る蚊帳が丁度|宜《い》い、あれは六七《ろくしち》の蚊帳だから、あれで丁度よかろう、若《も》しあれでなけれ
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