胸が裂ける様だとか、癪《しゃく》という事を覚えて、只おろ/\泣いてばかりおります。兄貴は改って枕元へ来て、
三「段々村方の者の耳に這入り、今日は老母《としより》の耳にも這入って、捨てゝは置かれず、私《わし》が附いて居て名主様に済まない、殊《こと》に家《うち》の物を洗いざらい持出して質に置き、水街道の方で遊んで、家《うち》へ帰らずに、夜になればお賤の処へしけ込んでおり、お前が塩梅が悪くっても、子供が虫が発《おこ》っても薬一服呑ませる了簡《りょうけん》もない不人情な新吉、金を遣《や》れば手が切れるから手を切ってしまえ」
と兄が申しまする。所がお累は
「何《ど》うも相済みませんが、仮令《たとえ》親や兄弟に見捨てられても夫に附くが女の道、殊には子供も有りますから、お母様《っかさん》やお兄様《あにいさま》には不孝で有りますが、私は何うも新吉さんの事は思い断《き》られません」
と、ぴったり云い切ったから、
三「然《そ》うなれば兄妹《あにいもと》の縁を切るぞ」
と云渡して、纏《まと》めて三十両の金を出すと、新吉は幸い金が欲《ほし》いから、兄と縁を切って仕舞って、行通《ゆきかよ》いなし。新吉は此の金を持って遊び歩いて家《うち》へ帰らぬから、自分は却《かえ》って面白いが、只|憫然《かわいそう》なのは女房お累、次第/\に胸の焔《ほむら》は沸《に》え返る様になります。殊に子供は虫が出て、ピイ/\泣立てられ、糸の様に痩せても薬一服呑ませません。なれども三藏の手が切れたから村方の者も見舞に来る人もござりません。新吉は能《い》い気になりまして、種々《いろ/\》な物を持出しては売払い、布団どころではない、遂《つい》には根太板《ねだいた》まで剥《はが》して持出すような事でございますから、お累は泣入っておりますが、三藏は兄妹の情《じょう》で、縁を切っても片時も忘れる暇《ひま》は有りません故、或日|用達《ようたし》に参って帰りがけ、旧来居ります與助《よすけ》と云う奉公人を連れて、窃《そう》っと忍んで参り、お累の家《うち》の軒下に立って、
三「與助や」
與「ヘエ」
三「新吉が居る様なれば寄らねえが、新吉が居なければ一寸《ちょっと》逢って行《ゆ》きたいから窃《そっ》と覗《のぞ》いて様子を見て、新吉が居ては迚《とて》も顔出しは出来ぬ」
與「マア大概《てえげえ》留守勝だと云うから、寄って上げ
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