れは何《ど》うも驚きました」
 新「叱《し》っ、何も仔細はない、頭へ届けさえすれば仔細はない事だが、段々物入りが続いて居る上に又物入りでは実に迷惑を致す、殊《こと》には一時面倒と云うのは、もう追々月迫致して居《お》ると云う訳で、手前は長く正当に勤めてくれたから誠に暇を出すのも厭だけれども、何うか此の死骸を、人知れず、丁度宜しい其の葛籠へ入れて何処《どこ》かへ棄てゝ、然《そ》うして貴様は在処の下総《しもふさ》へ帰ってくれよ」
 三「ヘエ、誠に、それはまあ困ります」
 新「困るったって、多分に手当を遣《や》りたいが、何うも多分にはないから十金遣ろうが、決して口外をしてはならぬぞ、若《も》し口外すると、己《おれ》の懐から十両貰った廉《かど》が有るから、貴様も同罪になるから然う思って居ろ、万一この事が漏れたら貴様の口から漏れたものと思うから、何処までも草を分けて尋ね出しても手打にせんければならぬ」
 三「ヘエ棄てまするのはそれは棄ても致しましょうし、又人に知れぬ様にも致しますが、私《わたくし》は臆病で、仏の入った葛籠を、一人で脊負《しょ》って行くのは気味が悪うございますから、誰《たれ》かと差担《さしにな》いで」
 新「万一にも此の事が世間へ流布してはならぬから貴様に頼むのだ、若し脊負えぬと云えばよんどころない貴様も斬らんければならぬ」
 三「エヽ脊負います/\」
 と云うので十両貰いました。只今では何《なん》でもございませんが、其の頃十両と申すと中々|大《たい》した金でございますから、死人を脊負って三右衞門がこの屋敷を出るは出ましたが、何《ど》うしても是を棄てる事が出来ません、と申すは、臆病でございますから少し淋しい処を歩くと云うと、死人が脊中に有る事を思い出して身の毛が立つ程こわいから、なるたけ賑《にぎ》やかな処ばかり歩いて居るから、何うしても棄てる事が出来ません、其の中《うち》に何処《どこ》へ棄てたか葛籠を棄てゝ三右衞門は下総の在所へ帰って仕舞うと、根津七軒町の喜連川《きつれがわ》様のお屋敷の手前に、秋葉《あきは》の原があって、その原の側《わき》に自身番がござります。それから附いて廻って四五間参りますると、幅広の路次《ろじ》がありまして、その裏に住《すま》って居りまするのは上方《かみがた》の人でござりますが、此の人は長屋中でも狡猾者《こうかつもの》の大慾張《だいよくばり
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