甚「まア/\宜《い》いやな」
 清「己ア帰るべい、何か、手が這入《へえ》ったか」
 甚「困ったからボサッカの中へ隠れて居たので、お前《めえ》帰《けえ》るならうっかり往《い》っちゃアいけねえ、今夜ボサッカの脇に人殺しが有った」
 清「何処《どこ》に」
 甚「己がボサッカの中に隠れて居ると、暗くって分らぬが、きゃアと云う声がノウ女の殺される声だねえ、まア本当に殺される声は今迄知らねえが、劇場《しばい》で女が切殺される時、きゃアとかあれイとか云うが、そんな事を云ったってお前《めえ》には分らねえが、凄《すご》いものだ、己も怖かった」
 清「怖《おっ》かねえ、女をまア、何《なん》てエ、人を殺すったって村方《むらかた》の土手じゃアねえか、ウーン怖かなかんべえ、ウーン何《ど》うした」
 甚「何うしたって凄いやア、うっかり通って怪我《けが》でもするといけねえから、其の野郎は刀や何かで殺す程の者でもねえ奴で、鎌で殺しゃアがったのよ、女の死骸は川へ投《ほう》り込んだ様子、忌々《いめえま》しい畜生《ちきしょう》だ、此の村へも盗人《ぬすっと》に這入《へえ》りやアがるだろうと思うから、其の野郎の襟首《えりくび》を取って引摺《ひきず》り倒した、すると雷が落ちて、己はどんな事にも驚きゃアしねえが雷には驚く、きゃアと云って田の畔《くろ》へ転げると、其の機《はずみ》に逃げられたが、忌々しい事をした」

        二十五

 清「怖《おっ》かねえナ、然《そ》うか怖かなくて通れねえ」
 甚「気を付けて行きねえ」
 清「まだ居るかなア」
 甚「もう居やアしめえ、大丈夫《でえじょうぶ》だ、美人《いゝおんな》なら殺すだろうが、お前《めえ》のような爺さんを殺す気遣いはねえ」
 清「じゃア己《おれ》帰《けえ》る、エヽ、じゃア又|些《ちっ》とべえ畑の物が出来たらくれべえ」
 甚「何か持って来て呉れても煮て食う間《ま》がねえから、左様なら、ピッタリ締めて行ってくれ、若者《わけえの》もっと此方《こっち》へ来《き》ねえ」
 新「ヘエ」
 甚「お前《めえ》江戸から来るにゃア水街道から来たか、船でか」
 新「ヘエ渡《わたし》を越して、弘教寺《くぎょうじ》と云うお寺の脇から土手へ掛って参りました」
 甚「此方《こっち》へ来る土手で能《よ》く人殺しに出会《でっくわ》さなかったな」
 新「私《わたくし》は運よく出会しませんで
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