下総の伯父さんの処へ逃げて行きたいが、まさかに女一人で行かれもしませんからね」

        二十二

 新「それじゃア下総へ一緒に行きましょうか」
 と又怖いのも忘れて行《ゆ》く気になると、
 久「新吉さん本当に私を連れて行って下さるなら、私は何様《どのよう》にも致します、屹度、お前さん末《すえ》始終|然《そ》う云う心なら、彼方《あっち》へ行けば、伯父さんに頼んで、お前さん一人位|何《ど》うにでも致しますから、何卒《どうぞ》連れて行って」
 と若い同士とは云いながら、そんなら逃げよう、と直《すぐ》に墓場から駈落《かけおち》をして、其の晩は遅いから松戸《まつど》へ泊り、翌日宿屋を立って、あれから古賀崎《こがざき》の堤《どて》へかゝり、流山から花輪村《はなわむら》鰭ヶ崎《ひれがさき》へ出て、鰭ヶ崎の渡《わたし》を越えて水街道《みずかいどう》へかゝり、少し遅くはなりましたが、もう直《じき》に羽生村だと云う事だから、行《ゆ》くことにしよう、併《しか》し彼方《あちら》で直《すぐ》に御飯をたべるも極りが悪いから、此方《こゝ》で夜食をして行《い》こうと云うので、麹屋《こうじや》と云う家で夜食をして道を聞くと、これ/\で渡しを渡れば羽生村だ、土手に付いて行《ゆ》くと近いと云うので親切に教えてくれたから、お久の手を引いて此処《こゝ》を出ましたのが八月二十七日の晩で、鼻を撮《つま》まれるのも知れませんと云う真の闇、殊《こと》に風が吹いて、顔へポツリと雨がかゝります。あの辺は筑波山《つくばやま》から雲が出ますので、是からダラ/\と河原へ下《お》りまして、渡しを渡って横曾根村《よこぞねむら》へ着き、土手伝いに廻って行《ゆ》くと羽生村へ出ますが、其所《そこ》は只今|以《もっ》て累ヶ淵と申します。何《ど》う云う訳かと彼方《あちら》で聞きましたら、累が殺された所で、與右衞門《よえもん》が鎌で殺したのだと申しますが、それはうそだと云う事、全くは麁朶《そだ》を沢山《どっさり》脊負《しょ》わして置いて、累を突飛ばし、砂の中へ顔の滅込《めりこ》むようにして、上から與右衞門が乗掛って、砂で息を窒《と》めて殺したと云うが本説だと申す事、また祐天和尚《ゆうてんおしょう》が其の頃|脩行中《しゅぎょうちゅう》の事でございますから、頼まれて、累が淵へ莚《むしろ》を敷いて鉦《かね》を叩いて念仏供養を致した、其の
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