行倒の商売
三遊亭円朝

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)是《これ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二百|遣《や》る

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(例)[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
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 是《これ》は当今《たうこん》では出来《でき》ませぬが、昔時《むかし》は行倒《ゆきだふれ》を商売《しやうばい》にして居《ゐ》た者があります。無闇《むやみ》に家《うち》の前《まへ》へ打倒《ぶつたふ》れるから「まアお前《まへ》何所《どこ》かへ行《い》つて呉《く》れ。乞「何《ど》うも私《わたくし》は腹《はら》が空《へ》つて歩かれませぬ、其上《そのうへ》塩梅《あんばい》が悪《わる》うございまして。と云《い》ふから仕方《しかた》なしに握飯《むすび》の二個《ふたつ》に銭《ぜに》の百か二百|遣《や》ると当人《たうにん》は喜んで其場《そのば》を立退《たちの》くといふ。是《これ》が商売《しやうばい》になつて居《ゐ》ました。或時《あるとき》此奴《こいつ》が自分の日記帳を落《おと》した。夫《それ》を拾《ひろ》つて読《よ》んで見ると、
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一|番《ばん》町《ちやう》にて倒候《たふれさふらふ》節《せつ》は、六|尺《しやく》棒《ぼう》にて追払《おひはら》はれ、握飯《むすび》二個《ふたつ》、番茶《ばんちや》一|杯《ぱい》。
一|翌日《よくじつ》牛込改代町《うしごめかいたいちやう》へ倒《たふ》れ候《さふらふ》節《せつ》は、銭《ぜに》一|貫文《くわんもん》、海苔鮨《のりずし》三|本《ぼん》、夫《それ》より午過《ひるすぎ》下谷上野町《したやうへのまち》へ倒《たふ》れ候《さふらふ》節《せつ》は唯《たゞ》お灸《きう》。
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底本:「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」筑摩書房
   2001(平成13)年8月25日初版第1刷発行
底本の親本:「定本 円朝全集 巻の13」世界文庫
   1964(昭和39)年6月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年6月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボラン
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