で》なさるし、何うかお気の紛れるようにと思って、私《わっし》ア身許《みもと》から知ってる堅《かて》え芸人でげすから、私が勧めて堺屋のお店《たな》へ出入《でいり》をするようになると、あんな優しい男だもんだから、皆さんにも可愛《かあい》がられ、お内儀《かみ》さんも飛んだ良い人間だと誉めて居らしったから、お世話|効《がい》があったと思って居ました、処がアヽ云う訳になったもんですから、お内儀さんが、此金《これ》で堺屋の閾《しきい》を跨《また》がせない様にして呉れと仰しゃって、金子《かね》をお出しなすったから、ナニ金子なんざア要りませぬ、私が行《ゆ》くなと云えば上《あが》る気遣いはごぜえませんと云うのに、何《なん》でもと仰しゃるから、金子を請取《うけと》って伊之助に渡し、因果を含めて証文を取り、お嬢さんのお供をしてお宅へ出ましたッ切《きり》で、何うも大きに御無沙汰になってますので」
主人「ナニ無沙汰の事は何うでも宜《よ》い、が、其の大金を取って横山町《よこやまちょう》の横と云う字にも足は踏掛《ふんが》けまいと誓った伊之助が、若の許へ来て逢引をしては済むまいナ」
勝「ヘエー、だッて来る訳がねえので」
主人「処が昨夜《ゆうべ》己《おれ》が確《たしか》に認めた、余り憎い奴だから、一思いに打斬《ぶちき》ろうかと思ったけれど、イヤ/\仲に勝五郎が這入って居るのに、貴様に無断で伊之助を、無暗《むやみ》に己が打《ぶ》つも縛るも出来ぬから、そこで貴様を呼びにやったんだ、だから其処《そこ》で立派に申開《もうしひらき》をしろ」
勝「ヘエー、それは何うも済まねえ訳で、本当に何うも見損った奴で」
主人「まア己の方で見ると、貴様は金子《かね》を伊之助にやりはすまい、好《よ》い加減な事を云って金子を取って使っちまったろうと疑られても仕様がないじゃアないか、店《たな》の主人《あるじ》は女の事だから」
勝「エ、御尤もで、じゃア私《わっし》は是から直《すぐ》に行って参ります、申訳がありませぬから、あの野郎、本当に何うも戯《ふざ》けやアがって、引張って来て横ずっ頬《ぽう》を撲飛《はりと》ばして、屹度《きっと》申訳をいたします」
其の儘|戸外《おもて》へ飛出して直に腕車《くるま》[#「くるま」は底本では「くまる」と誤記]に乗り、ガラ/\ガラ/\と両国|元柳橋《もとやなぎばし》へ来まして、
勝「師匠
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