》ゃアそれが辛《つろ》うございますから」
國「やア森松、もう時間が切れるぞ、早く/\」
時に獄丁《ごくてい》の横目《よこめ》と申す者が、
「さア/\限りはねえ、早くしろ/\、長くなると為に成らねえぞ」
と一々囚人を集めて居ります中《うち》に、ブウ/\という法螺貝の音、
横「さア/\此奴《こいつ》らア何時《いつ》まで居やがるんだ」
と追々囚人を引立てゝ船に乗込まして居ります。
十三
見送って居ります國藏、森松の両人は
「旦那ア、旦那ア、御新造を始め後《あと》のこたア御心配なさいますな」
と男泣に泣出す途端に亥太郎が駈付けてまいりまして、
亥「森松、國藏、旦那は何処《どこ》に居るんだ」
國「あゝ亥太郎兄イか、旦那は彼処《あすこ》へ」
亥「ど、ど何処に」
森「もう船に乗っていらア」
亥「やア旦那、一寸《ちょっと》待って下せえ、遅かった」
役「これ/\控えろ、もう時間だ」
亥「時間も糸瓜《へちま》もあるものか、ぐず/\すると打殺《ぶちころ》してしまうぞ、誰だと思う、豊島町の亥太郎だぞ」
役「やアまた亥太郎めが来やがったな」
亥「やかましい、旦那、何《ど》うも飛んだ事になりましたなア」
と鬼を欺《あざむ》く亥太郎も是が一生の別れかと、わッとばかりに泣出しました。附添の同心も予《かね》て亥太郎の事は承知して居りますから、
同心「やア亥太郎が始めて泣きやアがったぜ、大きな口だなア、其の癖手放しで泣いて居やがらア、アッハヽハヽ、さア/\もう宜《よ》かろう」
亥「えゝ未《ま》だ何《なん》にも云やしねえ、ぐず/\しやがると死者狂《しにものぐる》いだぞ、片ッ端から捻《ひね》り殺すからそう思え」
文「これ/\亥太郎殿、お上《かみ》の御法を犯しては成りませんぞ、何事も是までの因縁と諦めて、随分達者にお暮しなさい」
亥「お前さんばかり口がきけて私《わっち》にゃア少しもく、く、口がきけねえ、旦那、達者でいて下せえよ」
此処《こゝ》へ大橋の方から前橋《まえばし》の松屋新兵衞《まつやしんべえ》が駈付けてまいりましたが、人ごみで少しも歩けませぬ、突退《つきの》け撥返《はねかえ》し、或《あるい》は打たれ或は敲《たゝ》かれ、転がるように駈出しましたが、惜《おし》いかな罪人はあらまし船に乗って、今一度の貝の音でいよ/\出帆するのであります。新兵衞は大
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