@亥「へえ、それは/\」
文「一両日中に此の近辺で対面致します」
亥「あの蟠龍軒に、そいつア有難え、野郎め、其の時こそなぶり殺《ころ》しに」
文「それでござる、其の時お助太刀《すけだち》は誓って御無用でござりますぞ」
亥「やッ、それ計《ばか》りは旦那聞かれません、今まで彼奴《あいつ》の為に何《ど》の位《くれえ》苦労をしたか知れやしねえ」
文「いやさ、其処《そこ》がお頼みだ、武士の敵討に他人の力を借りたとあっては後世の物笑いになります、今まで文治が苦労をした甲斐がありません、さア此の道理を聞分けて、御心情はお察し申すが必らず助太刀して下さるな」
亥「へえ/\分りやした、そんなら宜《よ》うござんす、併《しか》し唯《たゞ》見ているだけなら宜うござんしょう」
文「それは御勝手、成るべく遠くへ離れて御覧下さい」
亥「併し先方に助太刀があれば」
文「いや、それも御無用」
亥「それじゃア旦那|余《あんま》りじゃアねえか」
文「はい、痩《やせ》ても枯れても文治は侍でござります」
亥「そりゃア云わずと分って居ます、それじゃア皆《みんな》に断らずばなるまい」
文「どうぞ宜しく頼む、なるたけ人に知れぬよう、万一逃がしたら百日の何《なん》とやら、そう事が分ったら一盃《いっぱい》やりましょう、これ町や」
亥「いや、私《わっち》ア酒は絶って居りますから」
文「はて、それは又|何故《なぜ》に」
亥「それだから少しゃア手伝わして下さいと云うんです」
文「いや、それ程に思ってくれる御親切は辱けないが、武士の面目《めんぼく》に関わるから」
亥「えゝ宜《よ》うがす、御機嫌宜う、十四日にゃア一生に一度の楽《たのし》み、早朝から見物にまいりやしょう」
文「左様なら」
亥太郎は表へ出まして、
亥「あゝ、いつに変らぬ武士の魂、当世に二人とねえ男だなア」
入れ違いに藤原喜代之助が入って参りまして、
喜「文治殿、藤原でござります、先程から亥太郎殿がおいでの様子ゆえ少々控えて居りました、数年御苦労の甲斐あって此度《こんど》の悦び、お察し申上げます」
文「ようこそお出で下さいました、是に過ぎたる悦びはござりません、今日までの御助力有難うぞんじます」
喜「時に文治殿、予《かね》てお話の小野|氏《うじ》の脇差、中身は確か彦四郎定宗と覚え居りますが、拵《こしら》えは何《なん》
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