l、あなたは何を仰しゃるのでございます、私《わたくし》はそんな浮気なことで参ったのじゃア有りません、ちょっとお目に懸って大事な事を」
主「大事な事とは何事で」
女「まア取次いで下さいまし」
主「えゝ旦那様、島から女が来ました」
文[#「文」は底本では「女」と誤記]「はてな、無人島《むにんとう》から来る訳はないから定めし三宅島でありましょう、何方《どなた》か知らんがお通し下さい」
女「これは/\旦那様、暫く」
文「さア此方《こちら》へ、何《ど》うも見覚えはございませんが何方でございましたろう」
女「はい、お忘れは御尤《ごもっとも》でございます、私《わたくし》は三宅島に居りまして、いろ/\お世話どころではございません、一命をお助け下さいました八丁堀阿部忠五郎の娘お瀧でございます」
文「やアお瀧さんでしたか、まるで見違いました、赦免の後《のち》は此の辺へまいって居《お》るのですか」
女「はい、向島の權三郎というお家《うち》に下女奉公を致して居ります、旦那様が島においでの時分、折々お話のございました大伴蟠龍軒」
文「えッ」
女「その大伴がまいりました」
文「えッ、そゝそゝそれは何方《どちら》へ」
女「花見がてら權三郎方へまいりました」
文「それは何時《いつ》の事で」
女「今日のことでございます、此の十四|日《か》に松平様とかのお役人様方をお連れ申すから、八九人前の膳部《ぜんぶ》を整えて置くようにというお頼みでございます」
文「ウム」
女「私《わたくし》は他事《ひとごと》とは云いながら、命の恩人の敵《かたき》、すぐに飛びかゝろうかと思いましたが、先は剣術|遣《つか》い、女の痩腕《やせうで》でなまじいな事を仕出来《しでか》して取逃すような事がありましては、御恩を仇《あだ》で返すようなものだと思い直しまして、何《ど》うしようかと案じて居ります矢先、御当家の御子息さんから、近頃私の家《うち》の隠居所に島から帰った侠客《おとこ》がいると聞いたことを思い出しまして、それとなくかま[#「かま」に傍点]を掛けて聞きますと、確かに旦那様のようでございますから、直《す》ぐとは存じましたが、ひょッと途中で蟠龍軒に気取《けど》られるといかぬと思いまして、日の暮々《くれ/″\》に出かけてまいったのでございます」
という知らせ、情は人の為ならずとは宜《よ》う申したも
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