ゥますと、舟がございます。只今申上げましたカノウ[#「カノウ」に傍点]と申しまするは舟のことであります。これは丸木で彫上《ほりあ》げました物で、長さは凡《およ》そ三間《さんげん》、幅は二尺五寸ぐらいあります。只今考えて見ますと、大阪の博物館にあります、古風の独木舟《まるきぶね》のようなもので、何《なん》の木か一向分りませぬ。舟といえば舟、人の二人も乗りますると、外《ほか》に何も置く処はございませぬ。さア何《ど》うか此の舟へ乗せて連れて往ってくれと申しますと、島人は何《なん》だか未《ま》だ文治を疑《うたぐ》って居ります様子、飛乗る途端に文治を陸《おか》へ突き放し、自分一人が飛乗りまして漕ぎ出そうと致します。併《しか》し海岸は遠浅で、岩角が沢山有りますから思うように舟が出ませぬ。是幸いに文治は突然《いきなり》海へ飛込み、カノー[#「カノー」に傍点]の小縁《こべり》に取付きました。その手を件《くだん》の島人が木刀を振上げて打とうと致しますから、文治は手早く其の手を取って押え、其の儘舟へ飛上りまして、
文「やい最前から是ほど申しても分らぬか、いかに言葉が碌々《ろく/\》通ぜずとも、あれ程手を合わして頼んだじゃないか、いよ/\肯《き》かずば打殺《うちころ》すぞ、さア何《ど》うだ、これでもか」
と手を捩上《ねじあ》げますると、
島「ウーム、負けろ/\」
文「分ったか」
島「大隅明《おおすみあきら》へ……」
文「その大隅明と申すのは其許《そのもと》の名か」
と指さし致しますると、
島「えッ/\」
と親指を出しましたので、
文「さては此の島人の居《お》る島に大隅明という島司《しまつかさ》が居《お》ると見えるわい、其の人ならば必ず分るであろう、召使同様な此奴《こいつ》が分らぬのも無理はない我《われ》が舟に乗るのを拒んで手向いしたというのも、我が同類を殺しはせぬかと疑《うたぐ》っての事であろう、尤《もっと》も千万、併《しか》し我《われ》が強力《ごうりき》に恐れてか、温順《おとな》しくなったとは云うものゝ、油断はならぬわい」
と文治は不図《ふと》思い付きまして、提物《さげもの》を取出して島人に遣《つか》わしますると、島人は嬉しそうに繰返し/\見て居りまする。又文治が胴巻の中《うち》より金を取出し、一分銀一枚を与えますると、島人は然《さ》も嬉しそうに之を押戴《おしいた
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