ィ》を捕《と》りますごとに、思わず、
文「汝《おのれ》蟠龍軒、切って/\切殺しくれん」
と大声《たいせい》に呼《よば》わりましては又我に返り、
文「これで思いが届かねば、人と生れた甲斐もなし、蟠龍軒達者で居れよ」
と云う折しも、木蔭《こかげ》に怪しき声ありて、「達者で居れ」という。文治は暫く四辺《あたり》を見廻しまして、
文「さては何者か、我が哀れ果敢《はか》なき境涯を見て笑うものと見えるわい」
と体《たい》を潜めて様子を窺《うかゞ》って居りましたが、別に怪しい様子もござりませぬ。
文「はて、不思議なこともあるものだ、達者で居れと己《おれ》の口真似をしたのは何者か知らん、まさか夢ではあるまい」
と段々山深く入込《いりこ》んで、彼方《あちら》此方《こちら》を尋ね廻りますると、高き樹の上に一筋の矢が刺さって居りまする。
三十三
文治は端《はし》なくも樹の上に征矢《そや》を認め、
文「はて、彼処《あすこ》に矢の刺さっている処を見れば、今は人が居ないにしても、我のように漂うて来た者があるに違いない」
と独語《ひとりごと》をいいながら其の樹に攀登《よじのぼ》り、矢を抜いて見ますと、最早竹の性《しょう》は脱《ぬ》けて枯枝同然、三四年も前から雨曝《あまざら》しになっていたものと見えて、ぽき/\と折れまする。文治は窃《そ》ッとこれを抜取りまして、
文「チエ…有難や、これこそ確かに人の造りし征矢、案に違《たが》わず此の島は折々|四辺《あたり》の島人《しまびと》の訪い来る島に相違ない、たとい其の島人が鬼であろうが蛇《じゃ》であろうが、事を分けて話したら、よもや頼みにならぬ事もあるまじ、やれ嬉しや、やッ……それ/\、今達者でおれと口真似をしたのは其の島人にはあらざるか、但《たゞ》し心の迷いかは知らぬが、かゝる矢種《やだね》のあるからには、何時《いつ》しか人の来るに相違ない、あゝ有難い/\」
また木蔭に声ありて、
「あゝ有難い/\」
文「いや、今のは確かに……」
と四辺《あたり》を見ますと、一羽の鸚鵡《おうむ》がつくねんと樹の叉《また》に蹲《うずく》まって居りまする。文治は心中に、「さては鸚鵡でありしか」と我ながら可笑《おか》しさに耐えず、
文「達者で居れ」
鸚「達者で居れ」
文「馬鹿野郎」
鸚「馬鹿野郎」
なか/\よく人の真似を致します。
前へ
次へ
全111ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング