閧ノ助けを得て、新潟沖の親船に賊窟《ぞくくつ》を構えたる敵《かたき》大伴蟠龍軒、秋田|穗庵《すいあん》の両人、やわか討たずに置くべきか、此の日本に神あらば武士たる者の一分《いちぶん》をお立てさせなされて下されまし」
と其の夜一夜を祈り明かし、夜の白々《しら/\》と明くるを幸い、板子《いたご》を割《さ》いたる道具にて船を漕ぎ寄せようと致しますると、一二丁は遠浅で、水へ入れば腰のあたり、
文「いよ/\神の助け給うか、有難し、辱《かたじけ》なし」
と漸《ようよ》う陸《おか》へ上《あが》りまして、船を引上げ、二人《ににん》の死骸は人目にかゝらぬようにして、島の入口二三丁|往《ゆ》けども/\人家はなし、只荒れ果てたる草木《くさき》のみ、人の通りし跡だになければ、流石《さすが》の文治も暫《しば》し呆気《あっけ》に取られて、ぼんやり彼方《かなた》此方《こなた》を眺めて居りましたが、小首を捻《ひね》って、
文「いや、これほどの島に人の上らぬ事はあるまい、何処《どこ》にか住居《すまい》があるに違いない」
と心を励まして或《あるい》は上《あが》り或は下《くだ》り、彼是一里余も捜しましたが、人の居そうな模様はございませぬ。もとより用意の食事は無し、腹は減る、力は抜ける、進退こゝに谷《きわ》まって、どっかと尻を据《す》えまして、兎《と》やせん角《かく》やと思案に暮れて居りまする。
文「最早十二月の中旬《なかば》、妻は何処《どこ》に何《ど》うしている事やら、定めし今頃は雪中に埋《うず》もれて死んだであろう、さなくば色里に売られて難儀をして居《お》るか、救いたきは山々なれども、此の身さえ儘ならぬ無人島の主《あるじ》、思えば我が身ほど不運な者はない、いや/\愚痴を溢《こぼ》すところでない、海上にて彼《あ》の難風《なんぷう》に出会い、幸《さいわい》に船は覆《くつがえ》りもせず、此の島に漂い着いたというのは……それのみか海賊の口から敵《かたき》の在処《ありか》の知れしは是ぞ神の助けであろう、あゝ無分別な事をしては第一神様に対しても相済まぬ」
と心を取直して又々一里ほど行《ゆ》けども/\人の足跡さえござりませぬ。
文「はて変だな、此の通り草木の生い立って居《お》る処を見ると、余程暖かい島に相違ない、何処にか人里があるであろう」
と一番高い樹《き》に登って四辺《あたり》を見廻しましたが
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