黷ホ助けてくれるは人情だ」
 と云って居ります中《うち》に、風は漸《ようや》く凪《な》いでまいりました。
 文「やア大分風が静かになって来た、これで天気になったらば、また助ける風も吹くであろう、死ぬも生きるも約束だ、各々《おの/\》確《しっ》かりしろよ」
 船「有難うござりやす、旦那の方が気が丈夫だ、こうなっちゃア人間|業《わざ》で助かる訳にゃア往《い》かねえ、どうか旦那、神様を信心して下せえ」
 文「そち達も信心が肝要だぞ」
 吉「なアに此方《こち》とらア信心したって神様が……」
 庄「やい何を云うんだ、確《しっ》かりしろよ、気が違ったか、心を改めて信心するが肝心だ、ねえ旦那」
 文「そうとも/\、それ天気になった、風も止んだぞ」
 庄「やア、こりゃア有難《ありがて》え、これと云うのも信心のお蔭だ、何《なん》しろあか[#「あか」に傍点]を掻かざアなるめえ」
 吉「だって、あか[#「あか」に傍点]掻《かき》も何も流されてしまったじゃアねえか」
 時に文治は、
 文「よし/\、こゝに宜《よ》い物がある」
 吉「へえ、宜い物って何《なん》ですか」
 文「宿屋から持って来た弁当箱がある」
 吉「何処《どこ》に」
 文「此の通り腰にぶら下げて居《お》る、飯も菜《さい》も沢山あるが、これを明けてから気長に掻い出そうじゃないか」
 吉「旦那、飯をお棄てなせえますか、そりゃア勿体ねえ、これから何日食わずに居《い》るか知れやしねえ、旦那、勿体ねえじゃ有りませんか」
 文「いや私《わし》は食べとうない」
 吉「旦那、棄てるのなら私《わっち》に下せえまし、弁当も何も此の暴風《あらし》で残らず流してしまったア、旦那が上らねえなら私どもに下せえな」
 文「いや/\これは食わぬ方が宜《よ》かろう」
 両人「なアに勿体ねえ、少しぐらい汐《しお》が入っても此の場合だ、飯と聞いちゃア食わずには居《い》られねえ、何《ど》うか下せえな」
 文「そんなら上げもしようが、中《あ》てられるなよ」
 吉「大丈夫、さア庄《しょう》、あか[#「あか」に傍点]は後《あと》にして先ず二人で遣付《やっつ》けようじゃねえか、成程こいつア中々|旨《うめ》え」
 と二人とも十箇《とお》ばかりの握飯《むすび》と菜《さい》まで残らず食《しょく》してしまいました。

  二十九

 吉「さア重箱が殻《から》になった、これから気長に
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