か》に物を心得んとは申しながら、余りと申せば乱暴狼藉」
と立ちかゝるを、殿様は押されながら、
殿「いやなに惣江、手出しをする事は必ずならんぞ、權六放してくれ、あ痛い、放せ、予が悪かった、宥せ/\」
權「宥せと云って敵じゃア許せねえけれども、先《ま》ず仕方話だから許します、さ何うだね」
殿「ハッ/\」
と殿様は稍《ようや》く起上りましたが、血だらけでございます。是は權六の血だらけの手で押付けられたから、顔から胸から血だらけで、これを見ると御家来が驚きまして、呆れて口が利けません。
殿「ハッ/\、至極|道理《もっとも》だ」
權「道理だって、私《わし》が何も手出し仕たじゃアねえのに、押《おせ》えるの斬るのと此処にいる人が云うなア分んねえ、咎《とが》も報いも無《ね》えものを殿様が手出しいして、槍で突殺《つッころ》すと云うだから、敵が然うしたら斯うだと仕方話いしてお目に掛けたゞ、敵なら捻り殺すだが、仕方話で、ちょっくら此の位《くれえ》なものさ」
殿「至極|正道《しょうどう》潔白な奴じゃ、勇気なものじゃ、何と申しても宜しい、予に悪い事があったら一々諫言をしてくれ、今日《きょう》より意見番じゃ、予が側を放さんぞ」
と有難い御意で、それからいよ/\医者を呼び、疵の手当を致して遣《つか》わせと、殿様も急に血だらけですからお召替になる。大騒ぎでござります。御褒美として其の時の槍を戴きましたから、是ばかりでも槍一筋の侍で、五十石に取立てられ、頭取下役《とうどりしたやく》という事に成りましたが、更に※[#「言+滔のつくり」、第4水準2−88−72]《へつら》いを致しませんが、堅い気象ゆえ、毎夜人知れず刀を差し、棒を提げて密《そ》っと殿様のお居間の周囲《まわり》を三度ずつ不寝《ねず》に廻るという忠実なる事は、他の者に真似は出来ません立派な行いでございます。又お供の時は駕籠に附いてまいりません。
權「私《わし》ア突張《つッぱ》ったものを着て、お駕籠の側へ付いてまいっても無駄でごぜえます、お側には剣術を知ってる立派なお役人が附いているだから、狼藉者がまいっても脇差を引抜いて防ぎましょうが、私ア其の警衛《けいえい》の方々に狼藉者が斬付けるとなんねえから、若《も》し怪しい奴が来るといかねえから私ア他の人の振《ふり》で先へめえりましょう、袴《はかま》などア穿《は》くのは廃《よ》して貰《もれ》えま
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