お名前までも汚《けが》すような事になって、貴方《あんた》は済むめえかと考《かんげ》えますが、何卒《どうか》して此の風儀を止めさせてえと思っても、他に工夫が無《ね》えから、寧《いっ》そ禍《わざわい》の根を絶とうと打砕《ぶっくだ》いてしまっただ、私一人死んで二十人助かれば本望でがす、私も若《わけ》え時分には、心得違《こころえちげ》えもエラ有りましたが、漸《よ、や》く此の頃|本山寺《ほんざんじ》さまへ行って、お説法を聞いて、此の頃少し心も直って参《めえ》りましたから、大勢の人に代って私一人死にます、どうか其の代り、お千代さんを助けてやって下せえまし、親孝行な此様《こん》な人は国の宝で土塊《つちッころ》とは違います、さ私を斬って下せえまし、親戚《みより》兄弟親も何も無《ね》え身の上だから、別に心を置く事もありません、さ、斬っておくんなせえまし」
 と沓脱石《くつぬぎいし》へピッタリ腰をかけ、領《えり》の毛を掻上げて合掌を組み、首を差伸ばしまして、口の中で、
權「南無阿弥陀仏/\/\/\/\/\/\」
 斯《かゝ》る殊勝《しゅしょう》の体《てい》を見て、作左衞門は始めて夢の覚めたように、茫然として暫く考え、
作「いや權六許してくれ、どうも実に面目次第もない、能《よ》く毀してくれた、あゝ辱《かたじ》けない、真実な者じゃ、なアる程左様……これは先祖が斯様な事を書遺《かきのこ》しておいたので、私《わし》の祖父《じゞい》より親父も守り、幾代となく守り来《きた》っていて、中指を切られた者が既に幾人《いくたり》有ったか知れん、誠に何とも、ハヤ面目次第もない、權六|其方《そなた》が無ければ末世末代東山の家名は素《もと》より、其方の云う通り慈昭院《じしょういん》殿(東山義政公の法名)を汚す不忠不義になる所であった、あゝ誠に辱ない、許してくれ、權六此の通り……作左衞門両手を突いて詫るぞ、宜くマ思い切って命を棄て、私の家名を汚さんよう、衆人《ひと》に代って斬られようという其の志、実に此の上もない感服のことだ、あゝ恥入った、実に我が先祖は白痴《たわけ》だ、斯様な事を書遺すというは、許せ/\」
 と縁先へ両手をついて詫びますと、傍に聞いて居りました忰の長助が、何と思ったかポロリと膝へ涙を落して、權六の傍へ這ってまいりました。
長「權六、あゝー誠に面目次第もない、中々|其方《そなた》を殺すどころじゃア
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