るとは何の事だ、うん權六」
權「はい誠に面目次第もない訳で、何卒《どうぞ》私《わし》を………」
千「權六さん/\、お前私へ恋慕を仕掛けた事もないのに、私を助けようと思って然《そ》う云ってお呉れのは嬉しいけれども、それじゃア私が済みません」
權「えゝい、其様《そん》なことを云ったって、今日《こんにち》誠実《まこと》を照す世界に神さまが有るだから、まア私《わし》が言うことを聞け」
長「いや、お父さまは何と仰しゃるか知らんが、どうも此の長助には未《ま》だ腑に落ちない事がある權六|手前《てまえ》が毀したと云う何ぞ確《たしか》な証拠が有るか」
權「えゝ、証拠が有りやすから、其の証拠を御覧に入れやしょう」
長「ふむ、見よう」
權「へえ只今……」
 と云いながら、立って土間より五斗張《ごとばり》の臼を持ってまいり、庭の飛石の上にずしーりと両手で軽々と下《おろ》したは、恐ろしい力の男であります。
權「これが証拠でごぜえます」
 と白菊の皿の入った箱を臼の中へ入れました。
長「何を致す/\」
權「なに造作《ぞうさ》ア有りません」
 と何時《いつ》の間《ま》に持って来たか、杵《きね》の大きいのを出して振上げ、さくーりっと力に任せて箱諸共に打砕いたから、皿が微塵に砕けた時には、東山作左衞門は驚きました。其処《そこ》に居りました者は皆顔を見合せ、呆気《あっけ》に取られて物をも云わず、
一同「むむう……」
 作左衞門は憤《おこ》ったの憤らないのでは有りません。突然《いきなり》刀掛に掛けて置いた大刀を提《ひっさ》げて顔の色を変え、
作「不埓至極の奴だ、汝《おのれ》気が違ったか、飛んだ奴だ、一枚毀してさえ指一本切るというに、二十枚箱諸共に打砕《うちくだ》くとは……よし、さ己が首を斬るから覚悟をしろ」
 と詰寄せました。權六は少しも憶する気色《けしき》もなく、縁側へどっさり腰をかけ、襟を広げて首を差し伸べ、
權「さ斬って下せえ、だが一通り申上げねばなんねえ事があるから、是れだけ聞いて下せえ、逃げも隠れもしねえ、私《わし》ゃア米搗の權六でござえます、貴方《あんた》斬るのは造作もねえが、一言《いちごん》云って死にてえことがある」
 と申しました。

        七

 さて權六という米搗《こめつき》が、東山家に数代伝わるところの重宝《じゅうほう》白菊の皿を箱ぐるみ搗摧《つきくだ》きながら、自若《じ
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