、芝居などへまいりますと、帰りには屹度《きっと》お茶屋で御膳や何か喫《た》べますって」
富「其様《そん》な事は何うでも宜《よ》い、御新造松蔭の家《うち》にいた下婢《おんな》は菊と云ったっけの」
村「私《わたくし》は名を存じませんが、其の下女が下男と不義をいたして殺されたという話を聞きましたから、只今考えて居りますので」
富「只松蔭とのみで名が分らんと、他《ほか》にない苗字でもなし、尤も神原四郎治は当家の御家来と確かに知れている、その四郎治と心を合せる者は大藏の外にはないが、先方《さき》の親の名が書いてあると調べるに都合も宜しいが、ス……これ定、其の茶屋町の縫という女を呼びに遣《や》れ、直《すぐ》に……事を改めていうと胡乱《うろん》に思って、何処かへ隠れでもするといかんから、貴様|一寸《ちょっと》行って来い、先刻《さっき》の衣服《きもの》の事について頼みたい事がある、他に仕立物もある、置いてまいった衣服二枚を買取るに都合もあるから、旦那様もお帰りになり、相談をするからと申してな、それに旨い物が出来たで、馳走をしてやる、早く来いと申して、直《すぐ》に呼んでまいれ」
定「じゃア私《わたくし》がまいりましょうか」
富「却《かえ》って貴様の方が宜かろう、女は女同志で、此の事を決していうな」
定「何う致しまして、決して申しは致しません」
と急いで出てまいりました。
四十三
お縫は迎いを受けて、衣服《きもの》が売れて幾許《いくら》かの口銭になることゝ悦んで、お定と一緒にまいりました。
定「旦那さま、あのお縫どんを連れてまいりました」
富「おゝ直《すぐ》に連れて来たか、此方《こっち》へ通せ」
縫「旦那様御機嫌宜しゅう」
富「其処《そこ》では話が出来ん、此方《こっち》へ這入れ構わずずうっと這入れ」
縫「はい……毎度御贔屓さまを有難う……毎度御新造様には種々《いろ/\》頂戴物を致しまして有難う存じます」
富「毎度面倒な事を頼んで、大分|裁縫《しごと》が巧《うま》いと云うので、大きに妻《さい》も悦んでいる、就《つい》ては忙しい中を態々《わざ/\》呼んだのは他の事じゃアないが、此の払物《はらいもの》の事だ」
縫「はい/\、誠に只お安うございまして、古着屋などからお取り遊ばすのと違って、出所《でどこ》も知れて居りますから上げました、途々《みち/\》もお定どんに伺いまし
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