昼の支度をしておくれ」
定「畏《かしこ》まりました」
 と是から午飯《ひる》の支度を致して、午飯《ひるはん》を喫《た》べ終り、お定が台所で片附け物をして居ります処へ入って来ましたのは、茶屋町に居りますお縫《ぬい》という仕立物をする人で、好《よ》くは出来ないが、袴《はかま》ぐらいの仕立が出来るのでお家中《かちゅう》へお出入りをいたしている、独り暮しの女で、
縫「御免遊ばして」
定「おや、お縫さん、よくお出掛け……さ、お上《あが》んなさい」
縫「誠に御無沙汰をいたしました、此間《こないだ》は有難う……今日《こんにち》は御新《ごしん》さんはお宅に」
定「はア奥にいらっしゃるよ」
縫「実はたった一人の妹《いもと》で、私《わたくし》が力に思っていました其の者が、随分丈夫な質《たち》でございましたが、加減が悪くって、其方《それ》へ泊りがけに参って居りまして、看病を致してやったり、種々《いろ/\》の事がありまして大分《だいぶ》遅くなりました、尤《もっと》もお綿入でございますから、未《ま》だ早いことは早いと存じまして」
定「出来ましたかえ」
縫「はい、左様でございます」
定「御新造様、あの茶屋町のお縫どんがまいりました」
村「さ、此方《こっち》へお入り」
縫「御免遊ばしまし……誠に御無沙汰をいたしました」
村「朝晩は余程加減が違ったの」
縫「誠に滅切《めっきり》御様子が違いました、お変り様《さま》もございませんで」
村「有難う」
縫「御意に入《い》るか存じませんが、お悪ければ直します」
村「大層|好《よ》く出来ました、誠に結構……お前のは仕立屋よりか却《かえ》って着好《きい》いと旦那も仰しゃってゞ、誠に好く出来ました、大分色気も好くなったの」
縫「これは何でございます、お洗い張を遊ばしましたら滅切りお宜しくなりました、尤《もっと》もお物が宜しいのでございますから、はい仕立栄《したてばえ》がいたします」
村「久しく来なかったの」
縫「はいなんでございます、直《じき》に大門町にいる妹《いもと》ですが、平常《ふだん》丈夫でございましたが、長煩《ながわずら》いを致しましたので、手伝いにまいりまして、伯母が一人ございますが、其の伯母は私《わたくし》のためには力になってくれました、長命《ながいき》で八十四で、此の間|死去《なくな》りましたが、あなた其の歳まで眼鏡もかけず、歯も好《よ》し、腰も曲
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