婆「はい、お繩《なわ》と申します」
秋「妙な名だな、お繩…フヽヽ余り聞かん名だの」
婆「はいあの私《わし》の村の鎮守様は八幡様《はちまんさま》でごぜえます、其の別当は真言宗で東覚寺《とうかくじ》と申します、其の脇に不動様のお堂がごぜえまして私《わたくし》の両親《ふたおや》が子が無《ね》えって其の不動様へ心願《しんがん》を掛けました処が、不動様が出てござらっしゃって、左の手で母親《おふくろ》の腹ア緊縛《しっちば》って、せつないと思って眼え覚めた、申子《もうしご》でゞもありますかえ、それから母親がおっ妊《ぱら》んで、だん/″\腹が大《でか》くなって、当る十月《とつき》に私《わし》が生れたてえ話でごぜえます、縄で腹ア縛られたからお繩と命《つ》けたら宜《よ》かんべえと云って附けたでごぜえますが、是でも生れた時にゃア此様《こん》な婆アじゃアごぜえません」
秋「アハヽヽ田舎の者は正直だな、手前は久しく来なかったのう」
婆「はい、ま、ね、秋は一番忙がしゅうごぜえまして、それになに私《わし》などは田地を沢山持って居ねえもんだから、他人《ひと》の田地を手伝をして、小畠《こばた》で取上《とりや》げたものを些《ちっ》とべえ売りに参《めえ》ります、白山の駒込の市場へ参《めえ》って、彼処《あすこ》で自分の物を広げるだけの場所を借りれば商いが出来ます」
秋「成程左様か、娘が有るかえ」
婆「いえ嫁っ子でごぜえます、是が心懸の宜《え》いもので、忰と二人で能く稼ぎます、私《わし》は宅《うち》にばかり居ちゃア小遣取《こづけえど》りが出来ましねえから、斯うやって小遣取りに出かけます」
秋「そうか、茶ア遣れ、さ菓子をやろう」
婆「有難う…おや/\まア是《こ》れだけおくんなさいますか、まア此様《こんな》に沢山《えら》結構なお菓子を」
秋「宜《い》いよ、また来たら遣ろう」
婆「はい、此の前《めえ》参《めえ》りました時、巨《でけ》え御紋の附いたお菓子を戴きましたっけ、在所に居ちゃア迚《とて》も見ることも出来ねえ、お屋敷様から戴《いたゞ》えた、有りがたい事だって村中の子供のある処へ些《ちっ》とずつ遣りましたよ、毎度はや誠に有難い事でござえます」
秋「どうだ、暑中の田の草取りは中々辛いだろうのう」
婆「はい、熱いと思っちゃア兎ても出来ませんが、草が生えると稲が痩せますから、何うしても除《と》ってやらねえばなりま
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