って憎さが百倍、さ斬っておくれ」
と云いながら身を躱《かわ》して飛付きにかゝる。
竹「そんなれば最う是迄」
と引払《ひっぱら》って突きにかゝる途端に、ころり足が辷《すべ》って雪の中へ転ぶと一杯の血《のり》で、
宗「おゝ何処《どこ》か怪我アせんか」
竹「私を斬ったな、法衣《ころも》を着るお身で貴方は恐しい殺生戒を破って、ハッ/\、お前さんは鬼になった処《どころ》じゃアない蛇《じゃ》になった、あゝ宗達という御出家は人殺しイ」
と云うが、ピーンと川へ響けます。
宗「あゝ悪い事をした、お竹さんが此様《こん》な怪我をする事になったのも畢竟《ひっきょう》我が迷い、実に仏罰は恐ろしいものである」
と思ったので宗達はカアーと取逆上《とりのぼ》せて、お竹が持っていた合口を捻取《ねじと》って、
「お前一人は殺しはせん、私《わし》も一緒に死んで、地獄の道案内をしましょう」
と云いながら我《わが》腹へプツリ。
宗「ウヽーン/\」
竹「もし/\……宗達さま」
宗「あい/\……あい……はアー」
竹「あなたは大層|魘《うな》されていらっしゃいました」
宗「あい/\、あゝ……おゝ、お竹さま」
竹「はい」
宗[#「宗」は底本では「竹」]「あなたはお達者で」
竹「あなた怖い夢でも御覧なすったか、大層魘されて、お額へ汗が大変に」
宗「はい/\……お前は何うしたえ」
竹「はい、私は大きに熱が退《と》れましたかして少し落着きました」
宗「左様か、ウヽン……煩悩経にある睡眠、あゝ夢中《むちゅう》の夢《ゆめ》じゃ、実に怖いものじゃの、あゝ悪い夢を視《み》ました、悪い夢を視ました」
と心の中《うち》に公案を二十ばかり重ねて云いながら、手拭を出して額と胸の辺《あたり》の汗を拭いて、ホッと息を吐《つ》き、
宗「あゝ迷いというものは甚《ひど》いものじゃ」
四十
さて又粂野の屋敷では丁度八月の六日の事でございます。此の程は大殿様が余程御重症でございます。お医者も手に手を尽して種々《いろ/\》の妙薬を用いるが、どうも効能《きゝめ》が薄いことで、大殿様はお加減の悪い中にまた御舎弟紋之丞様は、只今で云えば疳労《かんろう》とか肺労とかいうような症で、漸々《だん/\》お痩せになりまして、勇気のお方がお咳《せき》が出るようになり、お手当は十分でございますが、どうも思うように薬の効能が無い、唯今で申せ
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