ぐ》して、枕元にあった無反《むそり》の一刀を引抜いて、斬付けようとすると、がら/\/\と家鳴《やなり》震動がした」
○「ふうん」
侍「ばら/\/\表へ逃げる様子、尚《なお》追掛けて出ると、這《こ》は如何に、拙者が化《ばか》されていたのじゃ、茅屋《あばらや》があったと思う処が、矢張《やっぱり》野原で、片方《かた/\》はどうどうと渓間《たにま》に水の流れる音が聞え、片方は恐ろしい巌石《がんせき》峨々《がゞ》たる山にして、ずうっと裏手は杉や樅《もみ》などの大樹《だいじゅ》ばかりの林で、其の中へばら/\/\と追込んだな」
○「へえー成程、狐《きつね》狸《たぬき》は尻《けつ》を出して何かに見せると云うが、貴方それから何うしました」
侍「追掛けて行って、すうと一刀|浴《あび》せると、ばたり前へ倒れた…化物が…拙者も疲れてどたーり其処《そこ》へ尻餅を搗《つ》いた」
○「成程是は尤《もっと》もです、痛《いと》うござえましたろう、其処に大きな石があったんで」
侍「なに石も何もありゃアせん、余計な事を云わずに聞きなさい」
○「な何の化物でげす」
侍「善《よ》く善く其の姿を見ると、それが伸餅《のしもち》の石に化《か》したのさ」
○「へえ、何故だろうなア」
侍「だから何うしてもちぎる訳にいかん」
○「冗談じゃアない、真面目な顔をして嘘ばっかり吐《つ》いてる、皆《みん》な嘘《そら》っぺい話《ばなし》でいけねえ、己《おれ》のは本当だ、此の中《うち》に聞いた人もあるだろう、何《なん》の話さ、大変だな、己ア江戸の者だ、谷中の久米野美作守様の屋敷へ出入の職人だったが、其処《そこ》に大変な悪人がいて、渡邊様てえ人を斬って、其の上に女を連れて逃げたは、えゝ何とかいう奴だっけ、然《そ》うよ、春部梅三郎よ、其奴《そいつ》は甚《ひど》い奴で、重役の渡邊織江様を斬殺《きりころ》したんで、其の子が跡を追掛《おっか》けて行くと、旨く言いくろめて、欺《だま》して到頭連出して、何とかいう所だっけ、然う/\、新町河原《しんまちがわら》の傍《わき》で欺《だま》し討《うち》に渡邊様の子を殺して逃げたというんだが、大騒ぎよ、八州が八方へ手配りをしたが、山越《やまごし》をして甲府へ入《へい》ったという噂で」
鐵「止しねえ/\、うっかり喋るな、冗談じゃアねえぜ、若《も》し八州のお役人が、是《こ》れは何う云う訳だ、他人に聞いたんでと
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