して、それならば旦那さま恐入りますが、貴方のお裾《すそ》の方へでも入れて寝かしてくださいませんかと云った」
○「へえー、ふう鐵もっと此方《こっち》へ出ろ、面白い話になって来た、旦那は真面目になってるが、能《よ》く見ると助平そうな顔付だ、目尻が下《さが》ってて、旨く女をごまかしたね、中々油断は出来ねえ、白状おしなさい」
侍「ま、黙ってお聞きなさい、苟《かりそ》めにも男女《なんにょ》七才にして席を同じゅうせずで、一つ寝床へ女と一緒に寝て、他《ひと》に悪い評でも立てられると、修行の身の上なれば甚だ困ると断ると、左様ならば御足《おみあし》でも擦《さす》らして下さいましと云った」
○「へえー、女の方で、えへ/\、矢張《やっぱり》山の中で男珍らしいんで、えへ/\/\成程うん」
侍「どうも様子が訝《おか》しい、変だと思った」
○「なに先で思っていたんでしょう」
侍「それから拙者は此方《こっち》の小さい座敷に寝ていると、改めて又枕元へ来てぴたりと跪《ひざまず》いて」
○「其の女が蹴躓《けつまず》きやアがったんで」
侍「蹴躓いたのではない、丁寧に手を突いて、先生|私《わたくし》は何をお隠し申しましょう、親の敵《かたき》を尋ねる身の上でございます」
○「うん、其の女が…成程」
侍「敵は此の一村《ひとむら》隔《お》いて隣村に居ります、僅《わずか》に八里山を越すと、現に敵が居りながら、女の細腕で討つことが出来ません、先方は浪人者で、私《わたくし》の父は杣《そま》をいたして居りましたが、山界《やまざかい》の争い事から其の浪人者が仲裁《なか》に入り、掛合《かけあい》に来ましたのを恥《はず》かしめて帰した事があります、其の争いに先方《さき》の山主《やまぬし》が負けたので、礼も貰えぬ所から、それを遺恨に思いまして、其の浪人が私の父を殺害《せつがい》いたしたに相違ないという事は、世間の人も申せば、私も左様に存じます、其の傍《そば》に扇子《せんす》が落ちてありました、黒骨の渋扇《しぶせん》へ金で山水が描《か》いて有って、確《たしか》に其の浪人が持って居りました扇子《おうぎ》で見覚えが有ります、どうか先生を武術修行のお方とお見受け申して、お頼み申しますが、助太刀をなすって敵《かたき》を討たして下さいませんか、始めてお泊め申したお方に何とも恐入りますが、助太刀をなすって本意を遂げさせて下されば、何《ど》の
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