ると、お竹は種々《いろ/\》心配いたしている。それを宗達という和尚さまが真実にしてくれても何とのう気詰り、便りに思う忠平には別れ、弟《おとゝ》祖五郎の行方は知れず、お国にいる事やら、但《たゞ》しは途中で煩《わずら》ってゞもいやアしまいか、などと心細い身の上で何卒《どうぞ》して音信《たより》をしたいと思っても何処《どこ》にいるか分らず、御家老様の方へ手紙を出して宜《よ》いか分りませんが、心配のあまり手紙を出して見ました。只今の郵便のようではないから容易には届かず、返事も碌に分らんような不都合の世の中でございます。お竹は過越《すぎこ》し方を種々思うにつけ心細くなりました、これが胸に詰って癪《しゃく》となり、折々差込みますのを宗達が介抱いたします、相宿《あいやど》の者も雪のために出立する事が出来ませんから、多勢《おおぜい》囲炉裡《いろり》の周囲《まわり》へ塊《かたま》って茫然《ぼんやり》して居ります。中には江戸子《えどっこ》で土地を食詰《くいつ》めまして、旅稼ぎに出て来たというような職人なども居ります。
○「おい鐵《てつ》う」
鐵「えゝ」
○「からまア毎日《めいにち》/\降込められて立つことが出来ねえ、江戸子が山の雪を見ると驚いちまうが、飯を喰う時にずうと並んで膳が出ても、誰も碌に口をきかねえな」
鐵「そうよ、黙っていちゃア仕様がないから挨拶《えゝさつ》をして見よう」
○「えゝ」
鐵「挨拶《えゝさつ》をして見ようか」
○「しても宜《い》いが、きまりが悪いな」
鐵「えゝ御免ねえ……へえ……どうも何でごぜえやすな、お寒いことで」
△「はア」
鐵「お前《めえ》さん方は何ですかえ、相宿のお方でげすな」
△「はア」
鐵「何を云やアがる……がア/\って」
○「手前《てめえ》が何か云うからはアというのだ、宜《い》いじゃアねえか」
鐵「変だな、えゝゝ毎日《めえにち》膳が並ぶとお互《たげえ》に顔を見合せて、御飯《おまんま》を喰ってしまうと部屋へ入《へい》ってごろ/\寝るくれえの事で仕様がごぜえやせんな、夜になると退屈《てえくつ》で仕様が有りませんが、なんですかえお前《まえ》さん方は何処《どこ》かえお出でなすったんでげすかえ」
△「私《わし》はその大和路の者であるが、少し仔細あって、えゝ長らく江戸表にいたが、故郷《こきょう》忘《ぼう》じ難《がた》く又帰りたくなって帰って来ました」
鐵「へえー
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