を聞くと、平馬の申すには、
平「弟御《おとゝご》は此方《こっち》へおいでがないから、此の辺にうろ/\しておいでになるはお宜しくない、全体お屋敷近い処へ入らっしゃるのは、そりゃアお心得違いな事で、ま貴方は信州においでゞ、時節を待ってござったら御帰参の叶《かな》う事もありましょう、御舎弟も春部殿も未だ江戸へはお出《いで》がない、仮令《たとえ》御家老に何《ど》んなお頼みがありましても無駄な話でございます」
 と撥付《はねつ》けられ、
竹「左様なら弟は此方《こちら》へまいっては居りませんか」
平「左様、御舎弟は確《たしか》にお国においでだという話は聞きましたが、多分お国へ行って、お国家老へ何かお頼みでもある事でございましょう、併《しか》し大殿様《おおとのさま》は御病気の事であるが、事に寄ったら御家老の福原様《ふくはらさま》が御出府《ごしゅっぷ》になる時も、お暇になった者を連れてお出《いで》になる筈がないから、是は好《よ》い音信《たより》を待ってお国にお出《いで》でございましょう、殿様は御不快で、中々御重症だという事でございまして、私共《わたくしども》は下役ゆえ深い事は分りませんが、此のお屋敷近い処へ立廻るはお宜しくない事で」
 という。此の佐藤平馬という奴は、内々《ない/\》神原五郎治四郎治の二人から鼻薬をかわれて下に使われる奴、提灯持《ちょうちんもち》の方の悪い仲間でございますから、斯《か》く訳の分らんように云いましたのは、お竹にお屋敷の様子が聞かしたくないから、真実《まこと》しやかに云ってお屋敷近辺へ置かんように追払《おっぱら》いましたので、お竹はどうも致方《いたしかた》がない、旧来馴染の出入町人の処へまいりましても、長く泊っても居《お》られません、又一緒にまいった宗達も、長くは居《い》られません理由《わけ》があって、或時お竹に向い、
宗「私《わし》は何うしても美濃の南泉寺へ帰らんければならず、それに又私は些《ち》と懇意なものが有って、田舎寺に住職をしている其の者を尋ねたいと思うが、貴方は是から何処《どこ》へ参らるゝ積りじゃ」
竹「何処へも別にまいる処もありませんが、お国へまいれば弟が居ります、成程御家老も弟を連れて、お出《いで》は出来ますまい、御帰参の叶う吉左右《きっそう》を聞くそれまではお国表にいる事でございましょうから、私《わたくし》もどうかお国へ参りとうございま
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