欺《だま》かしては帰してしまう。七日まで/\と云い延べている中《うち》に早く六日経ちました。丁度六日目に美濃の南泉寺《なんせんじ》の末寺《まつじ》で、谷中の随応山《ずいおうざん》南泉寺の徒弟で、名を宗達《そうたつ》と申し、十六才の時に京都の東福寺《とうふくじ》へまいり、修業をして段々|行脚《あんぎゃ》をして、美濃路|辺《あたり》へ廻って帰って来たので、まだ年は三十四五にて色白にして大柄で、眉毛のふっさりと濃い、鼻筋の通りました品の好《よ》い、鼠無地に麻の衣を着、鼠の頭陀《ずだ》を掛け、白の甲掛脚半《こうがけきゃはん》、網代《あじろ》の深い三度笠を手に提げ、小さな鋼鉄《くろがね》の如意を持ちまして隣座敷へ泊った和尚様が、お湯に入り、夕飯《ゆうはん》を喰《た》べて夜《よ》に入《い》りますと、禅宗坊主だからちゃんと勤めだけの看経《かんきん》を致し、それから平生《へいぜい》信心をいたす神さまを拝んでいる。何と思ったかお竹は襖《ふすま》を開けて、
竹「御免なさいまし」
僧「はい、何方《どなた》じゃ」
竹「私《わたくし》はお相宿《あいやど》になりまして、直《じ》き隣に居りますが、あなた様は最前お著《つき》の御様子で」
僧「はい、お隣座敷へ泊ってな、坊主は経を誦《よ》むのが役で、お喧《やか》ましいことですが、夜更《よふけ》まで誦みはいたしません、貴方も先刻《さっき》から御回向をしていらっしったな」
竹「私《わたくし》は長らく泊って居りますが、供の者が死去《なくな》りまして、此の宿外《しゅくはず》れのお寺へ葬りました、今日《こんにち》は丁度七日の逮夜に当ります、幸いお泊り合せの御出家様をお見掛け申して御回向を願いたく存じます」
僧「はい/\、いや/\それはお気の毒な話ですな、うん/\成程此の宿屋に泊って居る中《うち》、煩《わずろ》うてお供さんが…おう/\それはお心細いことで、此の村方へ御送葬《ごそう/\》になりましたかえ、それは御看経《ごかんきん》をいたしましょう、お頼みはなくとも知ればいたす訳で、何処《どこ》へ参りますか」
竹「はい、こゝに机がありまして、戒名もございます」
僧「あゝ成程左様ならば」
と是から衣を着換え、袈裟《けさ》を掛けて隣座敷へまいり、机の前へ直りますと、新しい位牌があります、白木の小さいので戒名が書いてあります。
僧「あゝ、是ですか、えゝ、むう八月廿四|日
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