…しま蛇もなく」
久「えゝ、お前様の姿が赤蜻蛉《あかとんぼ》の眼の先へちら/\いたし候《そろ》」
早「何ういう訳だ」
久「蜻蛉《とんぼう》の出る時分に野良《のら》へ出て見ろ、赤蜻蛉《あかとんぼ》が彼方《あっち》へ往《い》ったり此方《こっち》へ往ったり、目まぐらしくって歩けねえからよ」
早「成程……ちら/\いたし候《そろ》」
久「えゝと、待てよ……お前と夫婦《みょうと》になるなれば、私《わし》は表で馬追《むまお》い虫、お前は内で機織虫《はたおりむし》よ」
早「成程……私《わし》は馬《うま》を曳《ひ》いて、女子《おなご》が機を織るだな」
久「えゝ…股へ蛭《ひる》の吸付いたと同様お前の側を離れ申さず候《そろ》、と情合《じょうあい》だから書けよ」
早「成程……お前の側を離れ申さず候《そろ》か、成程情合だね」
久「えゝ、虻《あぶ》蚊|馬蠅《むまばえ》屁放虫《へっぴりむし》」
早「虻蚊馬蠅屁放虫」
久「取着かれたら因果、晩げえ私《わし》を松虫なら」
早「……晩げえ私《わし》を松虫なら」
久「藪蚊《やぶか》のように寝床まで飛んでめえり」
早「藪蚊のように寝床まで飛んでめえり」
久「直様《すぐさま》思いのうおっ晴《ぱら》し候《そろ》、巴蛇《あおだいしょう》の長文句|蠅々《はい/\》※[#かしく」の草書体、345−9]」
早「成程|是《こ》りゃア宜《え》いなア」
久「是《これ》じゃア屹度《きっと》女子《おなご》がお前《めえ》に惚れるだ、これを知れねえように袂《たもと》の中へでも投《ほう》り込むだよ」
と云われ、早四郎は馬鹿な奴ですから、右の手紙を書いて貰って宅《うち》へ帰り、そっとお竹の袂へ投込《なげこ》んで置きましたが、開けて見たって色文《いろぶみ》と思う気遣《きづか》いはない。翌朝《よくあさ》になりますと宿屋の主人《あるじ》が、
五「お早うございます」
竹「はい、昨夜は段々有難う」
五「えゝ段々お疲れさま……続いてお淋しい事でございましょう」
竹「有難う」
五「えゝ、お嬢さん、誠に一国《いっこく》な事を申すようですが、私《わたくし》は一体斯ういう正直な性質《うまれつき》で、私どもはこれ本陣だとか脇本陣だとか名の有る宿屋ではございませんで、ほんの木賃宿の毛の生えた半旅籠同様で、あなた方が泊ったところが、さしてお荷物も無し、お連の男衆は御亭主かお兄様《あにいさま》か存じませんが、
前へ
次へ
全235ページ中144ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング