事と心得ます」
祖「それは何ういう訳」
梅「左様、絹木綿は綾操《あやどり》にくきものゆえ、今晩の中《うち》に引裂《ひきさ》くという事は、御尊父様のお名を匿《かく》したのかと心得ます、渡邊織江の織《おり》というところの縁によって、斯様《かよう》な事を認《か》いたのでも有りましょうか、此の花と申すは拙者を差した事で、今を春辺《はるべ》と咲くや此の花、という古歌に引掛《ひっか》けて、梅三郎の名を匿したので、拙者の文を其処《そこ》へ取落して置けば、春部に罪を負わして後《のち》は、若江に心を懸ける者がお屋敷|内《うち》にあると見えます、それを青茎《あおじく》の蕾《つぼみ》の儘《まゝ》貴殿の許《もと》へ送るというのは若江を取持《とりもち》いたす約束をいたした事か、好文木《こうぶんぼく》とは若殿様を指した言葉ではないかと存じますと申すは、お下屋敷を梅の御殿と申しますからの事で、梅の異名《いみょう》を好文木と申せば、若殿紋之丞様の事ではないかと存じます、お秋の方のお腹の菊之助様をお世嗣《よとり》に仕ようと申す計策《たくみ》ではないかと存ずる、其の際此の密書《ふみ》を中ば引裂《ひっさ》いて逃げましたところの松蔭大藏の下人《げにん》有助と申す者が、此の密書を奪《と》られてはと先頃按摩に姿を窶《やつ》し、当家へ入込《いりこ》み、一夜《あるよ》拙者の寝室《ねま》へ忍び込み、此の密書を盗まんと致しましたところを取押えて棒縛りになし翌朝《よくあさ》取調ぶる所存にて、物置へ打込んで置きましたら、いつか縄脱《なわぬ》けをして逃去りましたから、確《しか》と調べようもござらんが、常磐《ときわ》というのは全く松蔭の匿名《かくしな》で大藏の家来有助が頼まれて尾久在《おうござい》へ持ってまいるとまでは調べました、またそれに千早殿と認《したゝ》めてあるのは、頓と分りませんが、多分神原の事ではござらんかと拙者考えます、お屋敷の内に斯様な悪人があって御舎弟紋之丞様を亡《うしな》い、妾腹《めかけばら》の菊之助様を世に出そうという企《たく》みと知っては棄置《すてお》かれん事、是は拙者の考えで容易に他人《ひと》に話すべき事ではござらんが、御再考下さるよう……拙者は決して逃隠れはいたしませんが、お互に年来御高恩を蒙《こうむ》った主家《しゅか》の大事、証拠にもならんような事なれども、お国家老へ是からまいって相談をして見とう
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