うずば》の上草履《うわぞうり》を履《は》いて庭へ下《お》り、開戸《ひらき》を開け、折戸の許《もと》へ佇《たゝず》んで様子を見ますと、本を読んでいる声が聞える。何処《どこ》から手を出して掛金を外すのか、但《たゞ》し栓張《しんばり》を取って宜《い》いか訳が分りません、脊伸《せいの》びをして上から捜《さぐ》って見ると、閂《かんぬき》があるようだが、手が届きません。やがて庭石を他《わき》から持ってまいりまして、手を伸べて閂を右の方へ寄せて、ぐいと開けて中へ入り、まるで泥坊の始末でございます。縁側から密《そっ》と覗《のぞ》いて見ますると、障子に人の影が映って居ります。
祖「はてな、此方《こっち》にいるのは女のような声柄《こえがら》がいたす」
と密と障子の腰へ手をかけて細目に明けて、横手から覗いて見ますると、見違える気遣いはない春部梅三郎なれば、
祖「あゝ有難い、神仏《かみほとけ》のお引合せで、図《はか》らず親の仇《かたき》に廻《めぐ》り逢った」
と心得ましたから、飛上って障子を引開け、中へ踏込んで身構えに及び、声を暴《あら》らげ、
祖「実父の仇《かたき》覚悟をしろ」
と叫びましたが、梅三郎の方では祖五郎が来ようとは思いませんから驚きました。
梅「いやこれは/\思い掛ない……斯様《かよう》な処でお目にかゝり面目次第もない、まア何ういう事で此方《こっち》へ」
祖「汝《なんじ》も立派な武士《さむらい》だから逃隠《にげかく》れはいたすまい、何《なん》の遺恨あって父織江を殺害《せつがい》して屋敷を出た、殊《こと》に当家の娘と不義をいたせしは確かに証拠あって知る、汝の許《もと》へ若江から送った艶書が其の場に取落してあったが、よもや汝は人を殺すような人間でないと心得て居ったる処、屋敷から通知によって、確かに汝が父織江を討って立退《たちの》いたる事を承知致した、斯《か》くなる上は逃隠れはいたすまいから、届ける処へ届けて尋常に勝負を致せ」
と詰《つめ》かけました。
梅「御尤《ごもっと》もでござる、まア/\お心を静められよ、決して拙者逃隠れはいたしません、何も拙者が織江殿に意趣遺恨のある理由《わけ》もなし、何で殺害《せつがい》をいたしましょうか、其の辺の処をお考え下さい、何者が左様な事を申したか、実に貴方へお目にかゝるのは面目次第もない心得違い、此処《こゝ》へ逃げてまいりまして、当家の世
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