けれども、旦那様が何も手前《てめえ》を連れてって下さる事アねえ、何う考《かんげ》えても」
忠「分らん事をいうね、自分の御恩になった御主人様が斯ういう訳になったからだよ」
岩「何ういう訳に」
忠「他人《ひと》に殺されてお暇《いとま》になったんだよ」
岩「お暇……てえのは……お屋敷を出るんだろう」
忠「然《そ》うさ」
岩「出て……」
忠「分らんね、零落《おちぶれ》てしまうんだよ、御浪人になるんだよ、それだから私が従《つ》いて行かなければならない、仮令《たとえ》私が御免を蒙《こうむ》ると云ってもお前が己が若ければお供をして行《ゆ》くとこだが、手前《てめえ》何処《どこ》までもお供申して御先途《ごせんど》を見届けなければならんと云《い》うのが[#「云《い》うのが」は底本では「云《い》のが」]当然《あたりまえ》な話だ、其のくらいな覚悟が無ければ、頭《あたま》で武家奉公をさせんければ宜《い》いや、然《そ》うじゃアありませんか、お前さんは屹度《きっと》野暮《やぼ》に止めるに違いないと思ったから、手紙を上げたんだ、分りませんかえ」
岩「むゝ……分った、むゝう成程|侍《さむらい》てえものは其様《そん》なものか……だから最初《てんで》武家奉公は止そうと思った」
祖「忠平、親父が来たのじゃアないか」
忠「へい、親父がまいりました」
祖「おや/\宜くおいでだ、岩吉|入《はい》んな」
岩「御免なせえまし、誠にお力落しさまで……今度急に忰を連れてお出でなさる事になったんで、まゝ是はどうも武家奉公をすれば当然《あたりまえ》のことで、へえ私《わたくし》も五十八で」
祖「貴様も老《と》る年で親父も困ろうから跡へ残っているが宜《よ》いにと云っても、彼《あれ》が真実に何処までも随《つ》いて行ってくれるという、その志を止められもせず、貴様には誠に気の毒でね」
岩「どうも是もまア武家奉公で、へゝゝゝ私《わたくし》は五十八でげす」
忠「お父《とっ》さん、一つ事ばかり云ってゝ困るね其様《そん》な事を云うものではない、明日《あした》お立だからお餞別《はなむけ》をしなければなりませんよ」
岩「え」
忠「お餞別《はなむけ》をしなさいよ」
岩「なんだ……お花……は供《あ》げて来たよ」
忠「分らないよ、お餞別《せんべつ》」
岩「え……煎餅《せんべい》を……なんだ」
忠「旅へ入らっしゃるお土産《みやげ》をよ」
岩「うん/\…
前へ
次へ
全235ページ中114ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング