此の通り役柄をいたす侍が頼むのに、今となって否《いや》だなどと申しても、一大事を聞かせた上は手討にいたすから覚悟いたせ」
源「ど、何卒《どうぞ》御免を……お手討だけは御勘弁を……」
大「勘弁|罷《まか》りならん、神原殿がお頼みによって、其の方に申聞《もうしき》けた、だが今になって違背《いはい》されては此の儘に差置《さしお》けんから、只今手討に致す」
源「へえ大変な事で、私《わたくし》は斯様な事とは存じませんでしたが、大変な事になりましたな、一体水飴は私の処では致しませんへえ不得手なんで」
大「其様《そん》な事を申してもいかん」
源「へえ宜しゅうございます」
 と斬られるくらいならと思って、不承/\に承知致しました。
大「一時遁《いっときのが》れに請合《うけあ》って、若《も》し此の事を御舎弟附の方々《かた/\》へ内通でもいたすと、貴様の宅《たく》へ踏込んで必ず打斬《うちき》るぞ」
源「へえ/\御念の入《い》った事で、是がお薬でございますか、へえ宜しゅうございます」
 と宅《うち》へ帰って彼《か》の毒薬を水飴の中へ入れて煉《ね》って見たが、思うようにいけません、どうしても粉が浮きます、綺麗な処へ※[#「譽」の「言」に代えて「石」、第3水準1−89−15]石《よせき》の粉が浮いて居りますので、
源「幾ら煉《ねっ》てもいけません」
 と此の事を松蔭大藏に申しますから、大藏もどうしたら宜かろうと云うので、大藏の家《うち》へ山路という医者を呼び飴屋と三人打寄って相談をいたしますと、山路の申すには、是は斑猫《はんみょう》という毒を煮込んだら知れない、併《しか》し是は私《わし》のような町医の手には入《はい》りません、なにより効験《きゝめ》の強いのは和蘭陀《おらんだ》でカンタリスという脊中《せなか》に縞のある虫で、是は豆の葉に得て居るが、田舎でエゾ虫と申し、斑猫のことで、効験が強いのは煎じ詰めるのがよかろうと申しましたので、なる程それが宜かろうと相談が一決いたし、飴屋の源兵衞と医者の山路を玄関まで送り出そうとする時|衝立《ついたて》の蔭に立っていましたのは召使の菊という女中で、これは松蔭が平生《へいぜい》目を掛けて、行々《ゆく/\》は貴様の力になって遣《つか》わし、親父も年を老《と》っているから、何時《いつ》までも箱屋(芸妓《げいしゃ》の箱屋じゃアありません、木具屋と申して指物《さし
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