就《つい》ては上《かみ》がお逝去《かくれ》になれば、貴様も知っての通り奥方もお逝去で、御順《ごじゅん》にまいれば若様をというのだが、まだ御幼年、取ってお四歳《よっつ》である、余りお稚《ちい》さ過ぎる、併《しか》しお胤《たね》だから御家督御相続も仔細はないが、此の事に就て其の方に頼む事があるのだ、お家のため且《かつ》容易ならん事であるから、必ず他言をせん、何《ど》の様な事でもお家のためには御意《ぎょい》を背《そむ》きますまい、という決心を承知せん中《うち》は話も出来ん、此の事に就いては御家老を始め、こゝにござる神原氏我々に至るまで皆血判がしてある、其の方も何ういう事があっても他言はせん、御意に背くまいという確《しか》とした証拠に、是へ血判をいたせ」
源「へえ血判と申しますは何ういたしますので」
大「血で判をするから血判だ」
源「えゝ、それは御免を蒙《こうむ》ります、中々町人に腹などが切れるものではございません」
大「いや、腹を切ってくれろというのではない」
源「でも私《わたくし》は見た事がございます、早野勘平《はやのかんぺい》が血判をいたす時、臓腑を引出しましたが、あれは中々町人には」
大「いや/\腹を切る血判ではない、爪の間をちょいと切って、血が染《にじ》んだのを手前の姓名《なまえ》の下へ捺《お》すだけで、痛くも痒《かゆ》くもない」
源「へえ何うかしてさゝくれや何かを剥《む》くと血が染みますことが……ちょいと捺せば宜しいので、私《わたくし》は驚きました、勘平の血判かと思いまして、然《そ》ういう事がお家のおために成れば何《ど》の様な事でもいたします」
大「手前は小金屋と申すが、苗字は何と申す」
源「へえ、矢張小金と申します」
 と云うを神原四郎治が筆を執りて、料紙へ小金源兵衞と記し、
大「さア、これへ血判をするのだ、血判をした以上は御家老さま始め此の方《ほう》等《ら》と其の方とは親類の間柄じゃのう」
源「へえ恐入ります、誠に有難いことで」
大「のう、何事も打解けた話でなければならん、其の代り事成就なせば向後《こうご》御出入頭《おでいりがしら》に取立てお扶持も下さる、就《つい》てはあゝいう処へ置きたくないから、広小路あたりへ五間々口《ごけんまぐち》ぐらいの立派な店を出し、奉公人を多人数《たにんず》使って、立派な飴屋になるよう、御家老職に願って、金子《きんす》は多分に下《
前へ 次へ
全235ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング