の広小路で買物をいたし、今山下の袴腰《はかまごし》の方へ掛ろうとする後《うしろ》から、松蔭大藏が声をかけ
大「もし/\春部さま/\」
梅「あい、これは大藏殿かえ」
大「へえ、今日《こんにち》は好《よ》いお天気になりました、お非番でげすか」
梅「あゝ幸い非番ゆえ浅草へでもまいろうかと思う」
大「へえ私《わたくし》も今日《こんにち》は非番で、ま別に知己《しるべ》もありませんし、未《ま》だ当地の様子も不慣《ふなれ》でございますから、道を覚えて置かなければなりません、切《せ》めて小梅のお中屋敷へまいる道だけでも覚えようと存じて、浅草から小梅の方へまいろうと存じまして、実は頼合《たのみあわ》せてまいりました」
梅「然《そ》うかえ、三作《さんさく》はお前の相役《あいやく》だね」
大「へえ左様でござります、えゝ春部さま、貴方少々伺いたい儀がござりますが、決してお手間は取らせませんから、あの無極庵《むきょくあん》(有名の蕎麦店《そばや》)まで、えへ貴方少々御馳走に差上げるというは甚《はなは》だ御無礼な儀でござりますが、一寸《ちょっと》伺いたい儀がござりますから、お急ぎでなければ無極の二階までおいでを願います」
梅「別に急ぎも致さんが、何か馳走をされては困ります、お前は大分《だいぶ》下役の者へ馳走をして振舞うという噂があるが余り新役中に華美《はで》な事をせんが宜《よ》いと伯父も心配しています」
大「へえ、毎度秋月さま渡邊さまのお引立に因《よ》りまして、不肖の私《わたくし》が身に余る重役を仰付けられ、誠に有難いことで決してお手間は取らせませんから」
梅「いや又にいたそう」
大「どうか甚だ御無礼《ごむれい》でございますが何卒《どうぞ》願います、少々お屋敷の御家風の事に就《つい》て伺いたい儀がございます」
梅「左様か」
と素《もと》より温厚の人でございますから、強《た》ってと云うので、是から無極の二階へ通りました。追々|誂物《あつらえもの》の肴が出てまいりましたから、
大「女中今少しお話し申す事があるから、誰も此処《こゝ》へ参らんようにしてくれ、用があれば手を拍《う》って呼ぶから」
女中「はい、左様なれば此処を閉めましょうか」
大「いや、それは宜しい……えゝお急ぎの処をお引留め申して何とも恐入りました」
梅「あい何だえ、私《わし》に聞きたい事というのは」
大「えゝ、外でもござりませんが、
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