、聊《いさゝ》か高も取りました者でござるが、父に少し届かん所がありまして、お暇《いとま》になりまして、暫《しばら》くの間|黒戸《くろと》の方へまいって居り又は權六の居りました村方にも居りました、それゆえに彼《あれ》とは知る仲でございます」
織「実にどうも貴方は惜《おし》いことで、大概忠臣二君に事《つか》えずと云う堅い御気象であらっしゃるから、立派な処から抱えられても、再び主《しゅう》は持たんというところの御決心でござるか」
大「いえ/\二君に仕《つか》えんなどと申すは立派な武士の申すことで、どうか斯うやって店借《たながり》を致して、売卜者《ばいぼくしゃ》で生涯|朽果《くちはて》るも心外なことで、仮令《たとえ》何様《どん》な下役小禄でも主取《しゅうと》りをして家名を立てたい心懸《こゝろがけ》もござりますが、これという知己《しるべ》もなく、手蔓等《てづるとう》もないことで、先達《せんだっ》て權六に会いまして、これ/\だと承わり、お前は羨《うらやま》しい事で、遠山の苗字を継いでもと米搗《こめつき》をしていた身の上の者が大禄《たいろく》を取るようになったも、全くお前の心懸《こゝろがけ》が良いので自然に左様な事になったので、拙者などは早く親に別れるくらいな不幸の生れゆえ、とても然《そ》ういう身の上には成れんが、何様《どん》な処でも宜しいから再び武家になりたい、口が有ったら世話をしてくれんかと權六にも頼んで置きましたくらいで、何《ど》の様な小禄の旗下《はたもと》でも宜しいが、お手蔓があるならば、どうか御推挙を願いたい、此の儀は權六にも頼んで置《おき》ましたが、御重役の尊公定めしお交際《つきあい》もお広いことゝ心得ますから」
織「承知致しました、えゝ宜しい、いや実に昔は何か貞女両夫に見《まみ》えずの教訓を守って居りましたが、却《かえ》ってそれでは御先祖へ対しても不孝にも相成ること、拙者主人|美作守《みまさか》は小禄でござるけれども、拙者これから屋敷へ立帰って主人へも話をいたしましょう、貴方の御器量は拙者は宜く承知しておるが、家老共は未《ま》だ知らんことゆえ、始めから貴方が越後様においでの時のように大禄という訳にはまいりません、小禄でも宜しくば心配をして御推挙いたしましょう」
大「どうもそれは辱《かたじ》けない事で」
 と是から互に酒を飲合って、快く其の日は別れましたが、妙な物で、
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