の留守にどんな非常の事があるまいものでもない、若《も》し其の裏から火事でも出たらどうするえ、中々お前が余所《よそ》から駈付けても間にあうまい、其の時お長屋の方《かた》が我《わが》荷物は捨置き、お前のお父さんを助け出す人はなかろう、混雑の中だからどんな怪我がないものでもない、さすれば却って不孝になりますよ、神仏《かみほとけ》と云うものは家《うち》にいて拝んでも利益《りやく》のあるものだから、夜中に来てお百度を踏むのは止したほうがよろしい、未《ま》だそればかりじゃアない、お前さんのような容貌《みめ》よい女中が、深夜にあんな所に居て、悪者に辱《はず》かしめられたらどうするえ、又|先刻《さっき》のように雪に悩んで倒れていて誰も人が来なかったらどうするえ、それ故どうかお百度に出るだけは止して下さい、信心ばかりで親父《おとっ》さんの眼は治らん、名医にかけて薬を服《の》ませなければならんから、薬を服まして信心をするが宜しい、何処《どこ》のお医者に診て貰ったえ」
 娘「はい、荒井町《あらいまち》の秋田穗庵《あきたすいあん》さんと云うお医者様に診て戴きましたが、真珠の入る薬を付ければ治るけれども、それは
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